「真理は存在せず、許されない事など無い」

“Nothing is true—everything is permitted.”
「真理は存在せず、許されない事など無い」

これはケイオス・マジック(Chaos Magick):混沌魔術という、1970年代後半のイギリスのウェスト・ヨークシャーで生まれた魔術体系のモットーとされるフレーズで、中世ペルシャのアサシン教団の教主ハサン・サッパーブの言葉だそうです。

ジョン・ゾーンの新作『Chaos Magick』は、このケイオス・マジックの始祖ともいえるオースティン・オスマン・スペアの思想をモチーフとして書かれた曲が演奏されています。

ゾーンのこういうオカルト趣味アルバムってたくさんあるのですけど、個人的にはそういう思想的な話はほとんど興味なくて、正直いって「またですか?」という印象なのです。
ただそれは別として、このアルバムの曲自体はかなり興味をそそられます。

 

『Chaos Magick』の参加メンバーはこちら
Brian Marsella: Electric Piano
John Medeski: Organ
Kenny Grohowski: Drums, Percussion, Congas
Matt Hollenberg: Electric Guitar

基本はメデスキ、グロウスキー、ホレンバーグというSimulacrumの3人に、ブライアン・マルセラがエレクトリック・ピアノでゲストで加わりカルテット編成になるというもの。

もうこんなのメンバー見ただけで最高でしょう。

Simulacrumは、去年リリースされた同じくゾーンのオカルト趣味のアルバム『Baphomet』でも演奏を担当していて、ゾーンはこういう感じのアルバムは全て彼らに演奏させるつもりなのかも。
特にメデスキのオルガンはこういう音楽の雰囲気づくりには欠かせない、とゾーンは思っている気はしますね。

今回のアルバムの音楽的なコンセプトはというと、ずばり「70年代」ということみたいです。
70年代っぽいジャズロックというかプログレっぽい雰囲気の曲がかなりのウェイトを占めています。あとは特にマルセラのエレクトリック・ピアノがちょっと当時のフュージョンっぽかったりも。

これはケイオス・マジックが流行ったという1970年代という時代感を意識したんでしょうかね。
当時の時代背景は良くわからないのですが、たとえばイングランドの画家ロジャー・ディーンによる70年代のYesのアルバムジャケットなどは、神話などをモチーフにしていて、幻想的ともいえますけど、見方によってはオカルトっぽくもありますしね。

そういうわけで、過去のSimulacrumに比べるとハードコアな側面がかなり後退している感じで、彼らの新たな魅力を聴けるアルバムですね。
これまでのTzadikにはあまりこういうジャズロック/プログレテイストのアルバムは少なかったような気はしますけどね。強いて言えばエレクトリック・マサダとかかな。

メデスキのオルガン、マルセラのエレクトリック・ピアノは演奏の引き出しが多いというかさすがの演奏なのですけど、グロウスキーのドラムもカッコ良いです。
彼のドラムはロック・ドラミングの最良の部分が聴ける気がしますね。

Simulacrumのアルバムをこのブログで取り上げるのはもう3枚目かな。
書くたびに「最高、最高」ばっかり言っている気はしますけど、このアルバムを聴いても彼らはこれからもまだまだいろんなタイプのアルバムを聴かせてくれそうで楽しみですね。

余談

『Chaos Magick』のアルバムジャケットは、ケイオス・マジックのシンボルとされる「ケイオス球体」を形どったデザインのようです。(なんか空気中のバイキンのイラストみたいですけど)