ジョン・ソーン『Ballades』

現在のTzadikレーベル/ジョン・ゾーンのプロジェクトにおいて、ジョン・メデスキと共にほぼ全てのキーボード・ピアノを担当するブライアン・マルセラ

彼を中心としたピアノトリオ(今のところ特に名前はついていないようだ)による3枚のアルバム『Ballades』は、タイトル通りゾーン作曲のバラード集

Personnel:
Brian Marsella: Piano
Jorge Roeder: Bass
Ches Smith: Drums

ホルヘ・ローダー、チェス・スミスという現在Tzadikのカタログの中心を担う2人との、ベストメンバーとも言えるトリオです。

このトリオでレコーディングされたこれまでの2作、
1作目はバッハのゴルトベルク変奏曲とシェーンベルクのピアノ独奏曲をモチーフとした『Suite for Piano』(2022)

そして2作目はアルメニアの神秘主義者/作曲家グルジェフの著作と思想にインスパイアされて作曲された『The Fourth Way』(2023)

これまでの2作はゾーンの趣味が色濃く反映されたアルバムで、ベースはクラシックであり、特に神秘主義的なモチーフなどは、ゾーンのこれまでのアルバムの「定番」とも言える雰囲気でもありました。

それに対して『Ballades』は、映画音楽やミュージカル由来のスタンダードナンバーをイメージしたような、メロディアスな曲とロマンティックなムードが漂うアルバムになっていると思います。

ただ、そういった”いわゆる”ピアノトリオ的な雰囲気の中に、急激なペースチェンジや、エッジの効いた即興要素が挟み込まれ、心地よさと緊張感がうまく共存していると思います。

印象では、ゾーンが「この3人なら今までにないどういう演奏ができるだろう」と考えて作られたようなアルバムに感じますね

ピアノトリオは、いつの頃からかジャズの世界では主流では無くなったと思いますが、もしピアノトリオがずっと主流だった世界線があるなら、この『Ballades』のようなアルバムが最も人気で聴かれていたかもしれません。

マルセラと、チェス・スミスの2人はとんでもないテクニシャンだと思うのですが、バラードという曲の雰囲気を崩すことなく、曲のイメージやカラーをコントロールする技術はさすがです

音楽はエンタメ要素も重要な要素な訳で、それも込みでいうとこの『Ballades』はこのピアノトリオによる3枚の中で最も好きなアルバムだし、近年のピアノトリオアルバムでも、トップ・オブ・ザ・トップスのアルバムと言って良いと思いますね。