エリック・リードはフィラデルフィア出身(のちに家族でL.Aに移住)で、2歳からピアノをはじめ、5歳から牧師の父親の教会でピアノを演奏しはじめたそうです。
(2003年には、父親へのオマージュを捧げたトリビュートアルバム『Mercy and Grace』をリリースしています)
リードは16歳の時にウィントン・マルサリスと出会ったことが彼の(特に初期の)キャリアを決定づけることになります。
19歳でウィントンのセプテットに参加し、その後リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラにも参加しています。
1999年ごろから自身のグループを率いてソロ活動を積極に行うことになりますが、初期のアルバムではワイクリフ・ゴードンやレジナルド・ヴィールなど、ウィントンゆかりのメンバーとの共演も多かったです。
『Black, Brown, and Blue』のメンバーはこちら
Eric Reed (p)
Luca Alemanno (b)
Reggie Quinerly (ds)
共演者のふたりは名前は聴いたことありませんね。
最近のエリック・リードは「定番の共演者」みたいな人はあまりいなくて、アルバムごとに共演者を変えているようです。
今回のアルバムのタイトル『Black, Brown, and Blue』は「黒人作曲家の手によって書かれた曲を演奏する」というコンセプトがあるようです。
収録曲は、トリオのメンバーが書いた曲をそれぞれ1曲づつ、その他はデューク・エリントン、セロニアス・モンク、マッコイ・タイナー、ウェイン・ショーター、ベニー・ゴルソン、ホレス・シルヴァー、バスター・ウィリアムズといったジャズ界の巨人たちの曲を取り上げています。
またジャズ以外では、ビル・ウィザースの「リーン・オン・ミー」とスティービー・ワンダーの「Pastime Paradise」をヴォーカル入りで演奏しています。
超有名曲でベタな選曲な気もしますが、彼は以前にもスティングの「Englishman in New York」を取り上げたり、あまり奇をてらったようなカヴァーはやらない人みたいです。
ここで取り上げられた曲はスローテンポなバラード曲がほとんど。
ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビーみたいな」と言えばすんなり通じるはず。
アルバム全てに美しいメロディとソロで埋め尽くされ、心が洗われます。
特にバスター・ウィリアムズの「Cristina」は名曲です。
現在の音楽はジャンルの境界はあいまいで、明確にひとつのジャンルにくくられる音楽の方がむしろ少ないのかもしれませんが、このエリック・リードのピアノは100%ジャズと言ってよいかも。
もし会社の同僚に 「ジャズを聴いたことないから、なにかおススメのアルバムを教えてほしい」 と言われたとしたら(そんなこと言われたことないですが)何を選ぶか?と以前考えたことがあるのですが、その時に頭に浮かんだのはジョン・コルトレーンの『ブルー・トレイン』と、エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』ですね。おそらく、この『Black, Brown, and Blue』もきっと満足してもらえると思います。
逆に『In a Silent Way』とか『至上の愛』とか「マイ・フェイバリット・シングズ」とかはおススメしちゃダメでしょう。「ジャズってこういうのなんですか?」とか言われちゃいそう。サム・ゲンデルとかゴー・ゴー・ペンギンとかでも無理じゃないかな。
ブランフォード・マルサリスは、ジャズの要素は突き詰めると「スウィングビート」と「ブルーノート」、と言っていました。
『ブルー・トレイン』はこの定義に当てはまる気はします。
反対に『ワルツ・フォー・デビー』や『Black, Brown, and Blue』は定義に当てはまらないと思いますが、それでもはっきりとジャズ要素を感じることができます。
どのあたりの要素にジャズを感じるのか、ピアノトリオのサウンドそのものなのか、いくら考えても良くわかりません。謎ですね。