2019年も年末になると、雑誌などでは「2010年代のアルバムトップ○○」など、2010年代を総括するような記事がたくさん出ていましたね。
そんな中、ニューヨーク・タイムスの記事「The Decade in Jazz: 10 Definitive Moments」は、なかなか面白い記事でした。(NYタイムス的なスノッブな視点が満載ではあるのですが)
ニューヨークは今でもジャズの最も重要な都市ですけど、NYタイムスにとっては”地元の話題”な訳で、他とはちょっと違った視点でこの10年を振り返っています。
一部、読んだ感想をコメント追加しています。
2011年 エスペランサ・スポルディングがグラミー新人賞受賞
当時、ジャスティン・ビーバーが受賞すると予想されていたグラミー新人賞をエスペランサ・スポルディングが受賞しました。
この受賞で、彼女はこの後に続く、R・グラスパー、K・ワシントン、サンダーキャットらによるクロスオーバージャズの新しい世代の代表となりました。
2011年 ニコラス・ペイトンの#BAM宣言
ニューオリンズのトランペット奏者は
「ジャズはミュージシャンに強制的に貼られたラベルにすぎない」
「ジャズは1959年に死んだ」
「No.1ジャズレコードは1959年の”Kind of Blue “だ」
「ジャズはもうクールじゃない。1959年が最もクールだった年だ」
といった#BAM(Black American Music)宣言をSNSを通じて行い、物議を醸したようです。
2012年 ”Black Radio”が新しい時代の幕開けを告げる
グラミー賞のベストR&B賞を受賞し、ジャズのフレッシュな可能性を提示しました。
2014年 オーネット・コールマンとの別れ
こんなにトリビュートされる側のミュージシャンの琴線に触れたコンサートは他にないでしょう。
オーネット自身はほとんどサックスを吹かず、しばしば涙を浮かべながらソニー・ロリンズ、ローリー・アンダーソン、パティ・スミスらの演奏を見守っていました。
このコンサートのおよそ1年後に、オーネット・コールマンは亡くなりました。
2014年 ヴィジェイ・アイヤーがハーバードの音楽プログラムを改革する
2013年にマッカーサーフェローを受賞したヴィジェイ・アイヤーは、ジャズミュージシャンとして初めてハーバード大学の教授となった。彼はヨーロッパ中心のカリキュラムを廃止した唯一無二の過程を設立しました。
ジャズミュージシャンが最も高いレベルのアカデミーを改革することができたのです。
【コメント追記】
アイヤーは2010年代を代表するミュージシャンでしたけど、ハーバード教授就任の件はそんなに重要なことではないような、、
アイヤーが評価されているひとつの証明ではありますけど。
2015年 カマシ・ワシントンが『The Epic』をリリース
ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』がリリースされた2ヶ月後、このアルバムで重要な役割を果たしたカマシ・ワシントンは、彼の4枚目のアルバム『The Epic』をリリースしました。このポストバップ、カリプソ、ファンク、ゴスペルをブレンドしたこのアルバムの成功で、ワシントンはすぐにロサンゼルスのジャズシーンを代表するプレイヤーとなりました。
【コメント追記】
NYタイムス的にはR・グラスパーやK・ワシントンの活躍は大きな事件なんですね。やっぱりメディアは「新しいムーブメント」みたいなストーリーが好きみたい。
2017年 マクブライドがニューポートフェスを引継ぎ、スナーキー・パピーが新たにフェスをはじめる
オタク(nerdy)ジャズファンクグループ、Snarky Puppyがマイアミビーチで(自身のレーベル名を冠した)GoundUpフェスを開催しました。
ローズアイランドでは、クリスチャン・マクブライドがニューポート・ジャズ・フェスティバルの音楽監督に就任しました。マクブライドの#BAM哲学にもとづいて、フェスにはザ・ルーツ、メイシオ・パーカー、エスペランサ・スポルディング、ヘンリー・スレッギルらが出演しました。
2017年 #MeTooがジャズ界を揺るがす
2017年は若い女性ミュージシャンが、ステージ上、スタジオ、教育の現場にはびこるジャズ界のジェンダーに関する排他性について声を上げました。
多くの若い女性ミュージシャンがハラスメントや暴行の声を挙げはじめたのです。それに呼応してドラマーのテリ・リン・キャリントンはバークリー音楽院で「Institute of Jazz and Gender Justice」プログラムを開始しました。
【コメント追記】
記事のリンクを辿ると、ロバート・グラスパーがインタビューで女性ジャズリスナーに対してわいせつな表現でコメントしたことで世間から叩かれるエピソードも出てきますね。
(この件についてはこちらにくわしく書きました)
指摘されているように、ここ10年で女性ジャズ・ミュージシャンが活躍するようになったことは確かだと思いますけど、2017年からといった最近の話でもないのだと思いますけどね。
Tzadikレーベルには女性ミュージシャンの作品を取り上げるOracle Seriesというカテゴリがあるように、女性ミュージシャンに活躍の場を与えてきたという意味でもTzadikレーベルの果たした役割は重要なのでは無いかと思いますね。
2018年 The Stone がニュースクール大学に移転する
長きにわたってロウワー・イーストサイドのアヴァンギャルドシーンを支えてきたライブ会場であるThe Stoneがマンハッタンのウェストサイド側、グリニッジヴィレッジにあるニュースクール大学に移転しました。これは勝利だとも言えるし、敗北だとも言えます。
ニューヨークの実験主義が絶えることなく新しい形で引き継がれることでもありますが、マンハッタンの即興音楽を支えたスペースとの別れをも意味しています。
【コメント追記】
かつてアヴァンギャルドシーンの代表的なライブハウスだったニッティング・ファクトリー、トニックが、ともにニューヨークの地価高騰により値上げや閉鎖を余儀なくされた中、チャージを全てミュージシャンに還元するというThe Stoneが、なんだかんだと続いているのはやはりすごいことなんでしょうね。
The Stoneに関して、この記事(こちら)を読むとミュージシャンのThe Stoneへの愛情がよくわかるかな。
2019年 ジェイソン・モランがカーネギーホールとホイットニー美術館を占拠する
ジャズピアニストのジェイソン・モランの現代ジャズシーンでの影響力は大である。彼のトリオであるバンドワゴンはここ20年で最も重要なグループです。
2019年、ジェイソン・モランと彼の妻であるアリシア・ホール・モランは“Two Wings: The Music of Black America in Migration,”というクラシック音楽の舞台を上演しました。それはブルース、ロック、ジャズ、クラシックのミュージシャンを集めて演奏されました。
その数ヶ月後、ホイットニー美術館でヴィジュアル・アーティストとのコラボレーションによる上演を行いました。