ブラッド・メルドー『ジェイコブズ・ラダー』

2022年2月24日から、ロシアのウクライナへの侵攻が続いており、SNSなどではこの話題一色に近い状態ですね。
こういう話題になると、素人の意見や外野の見解はあまり読みたくなくなるので、SNSじたいから少し距離を置いている感じです。
ただ、ふだんから割と多くの情報をSNSからゲットしているので、マメに新作をチェックしたりすることがなくなり、音楽じたいから少し距離が空いているのかも。

そんな時期にリリースされた、ピアニスト、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)の新作『Jacob’s Ladder』

今回のアルバムは、メルドーがシンセなどいろんな楽器を担当し、ヴォーカリストなどをゲストに迎え、ドラムがマーク・ジュリアナということで、全体の雰囲気は2019年の『Finding Gabriel』の延長線上にあると言って良いと思います。

前作の『Finding Gabriel』も(タイトルや曲名からわかるように)宗教的な色合いが強いアルバムで、聖歌隊っぽいコーラスなどが印象的に使われていたのですが、今作もそういった雰囲気は引き継がれていますね。

タイトルの『Jacob’s Ladder』は、旧約聖書の中に出てくる、ヤコブが夢にみた天使が上り下りしている天までのびる階段(=ヤコブの梯子)のことのようです。

『Jacob’s Ladder』は、全体的な雰囲気を『Finding Gabriel』から引き継ぎつつも、プログレ”や”ジャズ・ロック”をコンセプトに据えたアルバムになっているとのこと。
カナダのプログレ・トリオ、ラッシュの1981年のヒット曲「トム・ソーヤー」を取り上げたり、Gentle Giantの作品をベースにした 「Cogs in Cogs」といった曲を演奏しています。

メルドーはもともとクラシックからピアノをはじめたそうですが、幼いころからずっと70年代のプログレや、ウェザー・リポートとかマハヴィシュヌ・オーケストラとかが好きだったそうで、それが今回のアルバムのきっかけとなったそうです。
これまでのメルドーのアルバムではあまりそういう面は聴けないので、意外ではあります。

『Finding Gabriel』はいかにも(Nonesuchレーベルのリスナーが好むような)「インディー・クラシック」っぽいアプローチで、宗教的で荘厳な雰囲気を演出していました。他に似たような作品が思いつかないオリジナリティのあるアルバムだったと思います(こういうジャンルに詳しくないだけかもしれませんが)

その反面、『Jacob’s Ladder』はプログレっぽいぶん「どこかで聴いたことがある」印象のアルバムですし、どちらかというとカリカチュアされた「いわゆるプログレ」的な展開も多いのですよね。

『Finding Gabriel』はグラミー賞を受賞したくらい評価の高いアルバムですが、ただ自分はどちらかというと今回の『Jacob’s Ladder』の方が好きかも。

ふわふわと捉えどころのない『Finding Gabriel』と違って、『Jacob’s Ladder』の方がよりドラマチックなパートはよりドラマチックで、盛り上がる曲はより盛り上がる、ハデな曲が多いと思います。
特に、まるでドラムマシーンのように聴こえることもあるマーク・ジュリアナの大胆に加工されたドラム音が、このアルバムでは曲調にぴったりとハマっている感じです。

それにしてもこの『Jacob’s Ladder』は、メルドーのアルバムということでジャズ・ファンが聴くのかもしれませんが、ジャズ要素は全くないですねぇ。