ビョーク(Björk)の10枚目のアルバム『Fossora』がリリースされましたね。
前作『Utopia』 (2017)から、実に5年ぶりとなるアルバムです。
ビョークについて書かれた記事や書籍はたくさんあるので、アルバムの背景などに興味のある方はそちらを読んでいただいて、今回の投稿は個人的な感想になります。
ビョークは大好きなアーティストのひとりなのですよね。
いちばん好きなアルバムは『Vespertine』、いちばん聴いたアルバムは『Medúlla』かもしれません。
ただ前作『Utopia』 (2017)は重苦しい雰囲気のアルバムで、一言でいうと「地味」なアルバムだったこともあり、最近のビョークについては(アルバムに限っていうと)「迷走している」という印象でした。
本作『Fossora』は、2018年に亡くなった母親で環境活動家のヒルドゥル・ルナ・ハウクスドッティルへのトリビュートでもあり、ビョークの息子であるシンドリがバッキング・ヴォーカルとして参加していることも話題となっています。
母親が環境活動家だったという点は、ビョークの活動に強く影響を与えているんじゃないでしょうか(ビョーク自身も環境保護のための企業に投資したりライブでグレタ・トゥーンベリさんのメッセージを流したりしているそうです)
具体的には『Biophilia』あたりから続く、「生」と「死」、「破壊」と「再生」、といったアートワークもそうですし、今回のアルバムで「菌類」がモチーフになっているのも、環境問題への問題提起をメタファーとして含んでいるのでしょう。
ビョークくらいのビッグネームになると、プライベートの出来事とアルバムの制作を結びつけたインタビューもけっこうありますね。
『Vulnicura』(2015)はビョークが現代アーティストのマシュー・バーニーとの関係が崩壊し離婚に至った時期に作られ、『Utopia』(2017)はそのトラウマから抜け出そうとしていた時期に作られています。
彼女のプライベートの重大な出来事がアルバム制作に強く影響を与えたのでは?ということも良く言われます。
でも実際のところ、んー、どうなんでしょうね?
少なくとも自分が聴いた限りではプライベートとアルバムのムードにあまり関係はないような気はします。
Fossora = diggerの意
『Fossora』で奏でられる音は、これまでのビョークのアルバムから比べるとエレクトロニックサウンドの割合を若干カットし、クラリネットの柔らかな響きやクワイア(The Hamrahlíð Choir=ビョークがかつて在籍したアイスランドの著名な合唱団)によるコーラスの響きが大きく取り入れられています。
一部には電子音楽/ダンス音楽っぽい要素もあり、不意にバリ島出身のガバ・モーダス・オペランダイ(Gabber Modus Operandi)によるとライバルなビートが不意に出てきたり、『Medúlla』のようにクワイア音声を音響処理したり。
ただこうやって『Fossora』を聴いて気づくのは、『Fossora』というアルバムは、このアルバム1枚のために新たにミュージシャンやクリエイターを集めたというよりも(もちろんそういう人も多いのだけど)、2018年から続くビョークの『Cornucopia』の延長線上という色あいが強い、という点です。
『Cornucopia』は、アルゼンチンの映画製作者ルクレシア・マルテルを演出に迎え、アイランドのフルートアンサンブルViibraなど『Utopia』ツアー時に起用したミュージシャンや舞台クリエイターを再び起用し、世界中で公演を続けています(2023年には日本にも来る)
『Cornucopia』と『Fossora』は似ている点も多いのですよね。
『Cornucopia』に参加していたThe Hamrahlíð Choirは『Fossora』でも引き続き起用されていましたし、『Cornucopia』ではフルート、『Fossora』ではクラリネットと楽器は違いますが木管楽器の響きという点で音の質感もかなり似ています。
さらに言えば、この『Fossara』=『Cornucopia』のような音作りは、さかのぼれば『Vespertine』(2001)後に行われたツアー(『Live At Royal Opera House』で聴くことができます)からの発展形とも言えるのかも。
このツアーは、マトモスによるエレクトロニカ調のファニーな電子音、ジーナ・パーキンスのハープ、イヌイット聖歌隊というミニマルかつイレギュラーな編成でした。
(この時の『Live At Royal Opera House』は今でも映像をよく観ますが、素晴らしいを超えて神々しいライブだと思います)
『Vespertine』ツアー時と比べて『Fossara』=『Cornucopia』は、一言でいえば音の情報量が多く「ゴージャス」
よりクラシック室内楽っぽい端正さと、グレデーションのように刻々と変化する聖歌隊による声のレイヤーなど、また違った良さがあると思いますね。
『Fossara』、素晴らしいアルバムだと思います。
少なくとも『Vespertine』以降のアルバムでは1番好きなアルバムになったのは間違いないですね。