Banquet Of The Spirits『Yesod』/ 「The Book Beri’ah」を全部聴くVol.9

このアルバムが、第3期Masadaのベストアルバムで決まり。

Banquet Of The Spirits
Cyro Baptista: percussion
Brian Marsella: piano, vibraphone
Shanir Ezra Blumenkranz: acoustic bass
Tim Keiper: drum set

Banquet Of The Spiritsの新機軸

Banquet Of The SpiritsはパーカッショニストであるCyro Baptistaによるプロジェクト。
Tzadikレーベルからのリリースも多く、第2期Masadaシリーズにも参加しているおなじみのグループですね。

ただ、今回のアルバムはこれまでのグループの音からガラッと方向転換をしています。
簡単に言うと、ピアニストのBrian Marsellaが大きくフィーチャーされていること。またこれまではオルガンやハープシコードなどさまざまなキーボードを使っていたのですが、いまではほぼピアノオンリーですね。
ピアノがリーダーのグループ、ほとんどBrian Marsellaピアノトリオのように聴こえますよね。

アルバム『Yesod』の1曲目の「IGGULIM」のライブ映像

メチャかっこいいです。
MarsellaのピアノもMasada曲を演奏するにもぜんぜん湿っぽくなく、明るいラテンフィールを感じさせて引き込まれます。

Banquet Of The Spiritsの民族音楽

もともとBanquet Of The Spiritsはパーマネントなメンバーのいない、曲ごとにメンバーを選ぶセッション風のグループでした。アルバム「Infinito」の参加メンバーなんてカオスですね。

Brian Marsella/Shanir Ezra Blumenkranz/Tim Keiperたち3人はもともとBanquet Of The Spiritsに参加していた主要メンバーではあったのですけど、第2期Masada 「Caym: The Book Of Angels Vol. 17」くらいから今のメンバーのみに思い切って切り詰めた感じですね。

とはいえピアノ・トリオ風のアレンジにシフトしたのは今回のアルバムが初めて。
前作まではラテンをメインとした広い意味での民族音楽/ワールドミュージックを演奏するグループでしたし。
基本的に「Caym: The Book Of Angels Vol. 17」もこのワールドミュージック路線でレコーディングされたアルバムですね。

この動画ワールドミュージック路線時代の演奏。Collin Walcott(※)の曲を演奏する4人
※Collin Walcottはオレゴンなどにも参加していたジャズ/ワールドミュージックのミュージシャンです。
見た目はジャズミュージシャンには見えないですね、、

Brian Marsella Trioは現在最高のピアノトリオ(かも)

フリージャズでピアノがほとんど使われないように、Tzadikレーベルでもあまりピアニストは目立たないですね。
ピアノやキーボードが参加する場合でも、これまではJamie SaftとかJohn Medeskiみたいにあまり弾きまくらない音数が少なめなピアニストが多かったです。
なかなか「ピアノを美しく響かせる」方法が見いだせないまま、ずっと鍵盤楽器奏者はわきに置かれていました
※Stephen DruryやUri Caineみたいな現代音楽/クラシックを活動のベースにしたピアニストはいるにはいますけどね。

そんな中で、Brian Marsellaは「ソロピアノのように饒舌に弾きまくる」という、これまでの常識からするとまったく逆のスタイルを提示していて、これがしっくりはまっています。
Chucho ValdesとかGonzalo Rubalcabaなどのキューバ音楽にテイストは近いのかも。
「アヴァンギャルドな演奏でピアノを美しく鳴らす」というミッションを、Marsella個人のセンスとテクニックで力ずくで成し遂げてしまったようにも感じます。

このスタイルはTrevor Dunn(b),Kenny Wollesen(drums)と組む自身のトリオでも引き継がれています。
Marsellaはジョン・ゾーンの最新のプロジェクトBagatellesでも大きくフィーチャーされているので、これからリリースされるだろうアルバムが待ちどおしいです。