Mary Halvorson’s Code Girl 『Artlessly Falling』レビュー

今では現代ジャズシーンを代表するギタリストと言っても良い、メアリー・ハルヴォーソンが自身がリーダーのグループであるMary Halvorson’s Code Girlでの新作アルバム『Artlessly Falling』をリリースしました。

ハルヴォーソンの新作としては「待望の」アルバムと言って良いんじゃないでしょうか。

ハルヴォーソンはアルバムリリースじたいは多くて、2020年は自身が参加する別グループであるThumbscrewによる『The Anthony Braxton Project』というアルバムもリリースしていますそれにしてもこのThumbscre(=親指スクリュー)というグループ名はどうにかならないものですかねぇ、、

ただリリースは多くても、実は彼女がリーダーのアルバムというと意外にないのですよね。現時点ではこのCode Girlのみ。
前回のアルバム『Code Girl』(2018)が彼女の最後のリーダーアルバムで、以降のアルバムは、他人名義のグループだったり連名のデュオアルバムだったり。

そういう意味で、今回の『Artlessly Falling』はひさびさのリーダーアルバムということで期待大でした。やっぱり気合が違うのだろうと。

ロバート・ワイアットの参加

このアルバムの話題といえば、なんといってもロバート・ワイアットの参加でしょうか。

前回のアルバム『Code Girl』(2018)リリース時に、雑誌「Wire」に、Code Girlというプロジェクトをはじめるにあたってインスパイアされた曲のプレイリストを公開していました。

web埋め込みのプレイリストを、Spotifyで作り直したのがこちら
(いやー、わたしめっちゃ親切!)

このプレイリストの冒頭がロバート・ワイアットの「Sea Song」であり、彼についてハルヴォーソンは、
「Code Girlはワイアットの影響が強いのです。個性的で真の意味で革新者。彼のアルバムは何年もリピートしています」
とコメントしています。

今回、なかば引退状態のワイアット本人がアルバムに参加したのは、こういったアピールが本人に届いたのかも。

他にもエリオット・スミスのことを「彼は史上最高のソングライターだと思う」とコメントしていたり。
プレイリスト全体をみても、フィオナ・アップル、サム・クック、メルヴィンズ、ヨ・ラ・テンゴなど普段のハルヴォーソンの活動とはちょっと傾向の違う面白いセレクションですね。

ハルヴォーソンのこういったフォーキーな路線には伏線があって、それは彼女が参加して2017年にリリースされた『New American Songbooks, Volume 1』というアルバムです。

このアルバムで、ハルヴォーソンは自身のプレイリストにあげたフィオナ・アップルやエリオット・スミスの曲のカバーを演奏していますね。
Code Girlというグループは、こういうフォーキーな路線を自分なりに解釈した演奏を行うプロジェクトだとも言えそうです。

ちなみにこの『New American Songbooks』で共演したグレッグ・ソーニアという人はディアフーフというノイズロックグループのドラマー/ヴォーカリストなのですが、ハルヴォーソンはこのグループがかなりお気に入りのようですね。
さきほどのプレイリストにもディアフーフの「Running Thoughts」という曲を選んでいますし、ディアフーフのギタリストであるJohn Dieterichとギターデュオアルバム『A Tangle Of Stars』をリリースしたりもしています。

こういう経緯からも明らかなように、もともとこのCode Girlというグループは、ハルヴォーソンの普段の演奏からはかなり異質。
思い切りシンプルでフォーキーなソングライティングに軸足を置いたアルバムではあります。
なんといってもヴォーカル入りだし。

今回の『Artlessly Falling』は前作よりその傾向が強まっていて、ジャズ/フリー系からはかなり距離を置いたアルバムと言えるかも。かなり聴きやすいと言えば聴きやすい。
とはいえ、ところどころに顔を見せるよじれたギターに彼女らしさが現れていますね。

Mary Halvorson’s Code Girl Personnel

Amirtha Kidambi – voice
Maria Grand – tenor saxophone, voice
Adam O’Farrill – trumpet
Mary Halvorson – guitar
Michael Formanek – bass
Tomas Fujiwara – drums, beer cans on track 2
Robert Wyatt – voice on tracks 1, 3, 5

Code Girlのメンバーは前作より若干の変更がありますね。
トランペットのアンブローズ・アキンムシーレがアダム・オファリルに代わり、テナーサックスにマリア・グランドが参加しています。
Maria Grandは女性ジャズミュージシャンを支援する団体「We Have Voice」のメンバーで、同じくメンバーのリンダ・メイ・ハン・オーつながりで、彼女のレーベルBiophilia Recordからソロ作もリリースしています。

Tomas Fujiwara(drums) と Michael Formanek(bass)のふたりはThumbscrewから引き続き参加。このトリオの組み合わせは共演もかなり長くハルヴォーソンとしてはやりやすいんでしょうね。
トマ・フジワラはもっと評価されて良いドラマーだと名前をみるたびに思っているのですけどね。

Amirtha Kidambiは南インド系のヴォーカリスト。正直、カルナティック古典のアクロバティックなヴォーカルを聴ける訳ではないのですが(彼女はそういうトレーニングを受けている訳ではないので)随所に効果的に彼女の声が使われています。
もうちょっとあまり彼女の歌パートは増やしても良いような。
今回もかなりワイアットにヴォーカルパートが割かれていましたし。

ともあれ、(自分みたいな)前作『Code Girl』が好きだった人には期待通りのアルバムだったのだと思いますね。

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