アリシア・キーズ『Keys』レビュー

アリシア・キーズが2021年12月にリリースした通算8枚目のアルバム『Keys』

2020年に発表された7枚目のアルバム『Alicia』から14ヶ月という短い期間ですが、前作『Alicia』はパンデミックの影響で2019年リリースが延期になったので、実質的には2年ぶりということになります。

今作は2枚組のアルバムとなっていて、1枚目が「Originals」と2枚目の「Unlocked」と呼ばれています。
これは(一部例外はありますが)同じ曲を2つの異なるアレンジでレコーディングして、2枚のアルバムに振り分けているとのこと。

それぞれ、ゆるやかとしてピアノの音色を中心としたアリシアが自身がオールドスタイルのR&Bライクなアレンジを施した「Originals」と、ヒップホップ・プロデューサーのMike WiLL Made-Itによるアレンジしたのがビート重視の今風の「Unlocked」という特徴があるみたいです。

アリシアはこれまでもずっと自分が演奏して歌いたい音楽と、流行りのトレンドをうまく両立させてきたと思いますが、こういうアルバムを作るところを見ると、ここ最近ではそれも難しいと考えている気がしますね。

つまり、これまで彼女(と彼女の昔からのファン)が好んできたR&Bマナーの曲が「Originals」と、もっと若い層へ向けたアレンジ「Unlocked」の両立が難しくなってきて、思い切って2バージョンに分けたということなのだと思います。

こういう試みもストリーミングとかプレイリストを念頭に置いたアルバムづくりということなのでしょうね。
好きな方の1枚だけ聴いても良いし、2枚別々に聴いても良いし、なんならアレンジが2つある曲のどちらかを選んでも自分なりの1枚を作ることもできる、と。

彼女は現役トップクラスの評価と賞賛を受けてきたアーティストだし、彼女が演奏するジャンルでは突出した存在だと思うのですが、そんな彼女であってもここまで「特定の人向けの音楽を作りたくない」「常にトレンドのセンターにいたい」というどん欲さを見せるというのは、なんというかすごいとしか言いようがないですね。

彼女はグラミー賞の司会を務めたりと最近では大物感も出てきているのですが、やっぱり「賞は与える側ではなくてもらう側でいたい」ということなのかも。

Originals or Unlocked

で、今回の『Keys』ですが、2枚のアルバムで聴いた印象はかなり違う訳ですが、個人的には1枚目の「Originals」の方が圧倒的にお気に入りではあります。

さすがにアリシアのアルバムだと山のようなレビューが読めるのですが、2枚目の「Unlocked」はビートの選び方がイマイチという評はちらほら見かけました。
要はMike WiLL Made-Itは役不足である、と。
今では「Unlocked」のようなコード感のないビートのみの曲も普通ですが、アリシアがそういうバックトラックに歌をのせても「これじゃない」感が強いんですよね。

その反面「Originals」は素晴らしくて、アレンジはオールドスタイルR&Bなのですがとにかく名曲揃いだと思いますね。

前回の「Alicia」もかなり良いアルバムで「低迷を完全に抜け出してきた」と思ったのですが、今回はさらに曲の完成度も密度が高いアルバムかも。

「Paper flowers」「Love When You Call My Name」「Old Memories」といった曲はエモーショナルかつドラマチックで、かつてのアリシアの珠玉のヒットソングと比べてもそん色ない輝きがあるように感じます。
「Old Memories」などは、後になって彼女のキャリアを振り返る時に、この時代の名曲として真っ先に名前があがることになるのでは?
その他の曲も全体的にレベルが高いと思うし、「Is It Insane」のようなジャズテイストのナンバーなども新鮮です。

前作『Alicia』をブログで取り上げた時は
「アリシアがアメリカの音楽シーンのセンターに戻ることはもう無いと思うけど、素晴らしいアルバムを手に戻ってきてくれたのだからぜんぜん構わない」
と書いたのですけど、こういうアルバムを作るアリシアを見てるともうガンガン売れてほしいと思っちゃうのですけどね。

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