Al-Kindi Ensemble『Sufi Trance Of The Whirling Dervishes Of Damascus』

アル・キンディ・アンサンブル(Al-Kindi Ensemble)は、フランス生まれで後にイスラムに改宗したジュリアン・ジャラル・エディン・ワイス(Julien Jalâl Eddine Weiss)によって、1983年にシリアのアレッポで設立された、スーフィ音楽グループです。

なにがきっかけか忘れてしまいましたが、以前に自分のワールド系のフェイバリット・アルバムを選んだのですが(ここ)、その中でアル・キンディの『Syria: Takasim & Sufi Chants From Damaskus』というアルバムを選びました。

このアルバムも含め、アル・キンディのアルバムは、自分が音楽を聴きはじめた最初期に知ったことあり、中東の音楽に興味を持つきっかけとなったグループのひとつかもしれません。

ドラムとベースの採用、バックビートの強調といった、いわゆるポピュラー音楽の様式とは全く異なるアラブ音楽のスタイルは聴いてて新鮮でしたし、宗教音楽といういわゆるエンタメとは別の価値基準の中で、こんなに豊かな音楽世界が拡がっていることを知れたのは、その後の音楽を聴く傾向を変えるほどの驚きでした。

アル・キンディに関しては、現役で音楽活動をしていたという記憶は自分にはなく、いわゆる「名盤ガイドブックに載るような」過去のグループという認識でもありましたね。

設立者のワイスは2015年に亡くなっていますし、2010年ごろから激しくなったシリア内戦の影響で、グループはシリア国内の演奏活動は難しくなり、ほぼヨーロッパへの亡命に近いかたちの制限のある活動を余儀なくされたようです。

そんなアル・キンディですが、今年になって『Sufi Trance Of The Whirling Dervishes Of Damascus』というアルバムがリリースされていました(ストリーミングもあり)

アルバムのリリース情報を読んだとき「あー、また過去のコンピかなにか?」と思ったのですが、インフォを読んでびっくりしたのはなんとグループの新録とのこと!

どうもパリで開催された、グループ結成40周年の記念コンサートのライブ録音のようです。

これは盛り上がる、めっちゃ盛り上がる!

ライブ映像では旋回舞踊もこのライブで観ることができますね。
くるくると回転しながら右手を天に向け神(アッラー)の祝福を受け、左手を下に向けその祝福を信者に授ける特徴的な舞踊ですね。

「スーフィ・トランス」と言いつつ、「それはただ目が回っているだけでは?」と、観るたびに毎回思うのですけどね。

 

アルバム参加メンバー

Sheikh Hamed Daoud (chant) ※ Sheikh Hamed Dawoodという表記もあるようです
Ziad Kadi Amin (ney)
Adel Shams El Din (riq)
Mohamed Qadri Dalal (oud)
Khadija El-Afritt (qanûn)
Diaa Daoud (chorus)
Solieman Daoud (chorus)

アル・キンディは様々な詠唱者(と呼ぶ?)と共演をしているのですが、今回のアルバムのSheikh Hamed Daoudという方が担当しているようです。
この人がこれまでにアル・キンディと共演したアルバムは、たぶん無いんじゃないかな。

今作のメンバーには、ジュリアン・ワイスさんとともにグループの設立メンバーであるネイ(アラビアン・フルート)のZiad Kadi Aminと、リクのAdel Shams El Dinは参加しています(Adel Shams El Dinがディレクターを務めているらしいです)

ワイスさん亡きあとのカヌーンはKhadija El-Afrittという奏者が担当していますね。

そして肝心のアルバムの内容はというと、まず「音が良い」

アル・キンディのアルバムは基本はライブ録音が多いと思うのですが、時代的なこともあって今の感覚からするとクリアな音質で録れているアルバムは少ないので、今回のアルバムはそこがまず貴重だなと思います。

Sheikh Hamed Dawoodが朗々と歌い上げる力強い詠唱も聞きどころですが、全体的にコーラス(と言って良いのか)との掛け合いが中心で、変化に富んで聴いてて楽しいです。
(実はこういうのが「ヨーロッパ向け」スタイルなのかもしれませんが)

でも改めてこうやってリユニオンライブを聴くと、やっぱり「このグループの活動が本当に終わったんだな」「もう次は無いんだろうな」となんとも言えない気持ちになりますね。