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プリンス:終わりのはじまり

前回ブログ投稿で「買うべきじゃない」とまで書いたのに、なんだかんだ言ってやっぱり聴いてしまいました。

プリンスが2010年にレコーディングしたままリリースされずペイズリーパークの倉庫に眠っていた幻のアルバム『Welcome 2 America』が2021年になってリリースされました。

このアルバムがお蔵入りになった理由については明らかにはなっていませんが、おそらくプリンス本人が「リリースするレベルにない」と考えたことは状況的に明らかです。そういった事前の予測が正しかったのかどうか、答え合わせのような感覚で聴いてしまいました。

そして実際に聴いてみたのですが、その感想としては、、
全体的に地味。
ストレートなロック調の曲が多いのですがとにかく地味。

やっぱりプリンスは単純にアルバムの出来が気に入らなくてリリースしなかったんだな、という印象です。

「発掘された未発表の新作アルバム」みたいなことを言わずに「2010年当時の未発表アウトテイク集です」とでも言っておけば、それはそれで熱烈なファンにとっては価値ある音源として正当な評価になったのだと思うのですけど。

2010年

あらためて考えると、このアルバムがレコーディングされた2010年ごろはプリンスにとって実際のところどういう次期だったのでしょうね。
わたしは2010年当時の記憶は全く無いのですけど。

オフィシャルアルバムでいうと、プリンスは2010年に『20Ten』をリリースしています。
それまでは山のように音源をリリースし続けていたプリンスのアルバムのリリース間隔が、だんだん長くなりはじめた時期とも言えます。

個人的な主観も交えて言うと、プリンスのアルバムでは『イマンシペイション』から『Rave Un2 the Joy Fantastic』くらいが高いテンションをキープした密度の高いアルバムだったような気がします。
要は本人も作品の出来に満足していた時期なのだと思いますね。

それに比べると、2010年以降はかつての焼き直しとももいえるアルバムもちらほら見られますし、『Welcome 2 America』や『20Ten』などはちょうどテンションが落ち始めた時期のアルバムと言えます。
そして、その落ちたテンションは亡くなるまでもとに戻ることは無かったということですね。

それが本人の年齢のせいなのか、(ファンには知る由もない)プライベートな話なのかわからないですが、音楽業界の環境変化も大きかったんじゃないでしょうか。

この2010年あたりの時期というと、2007年にアルバム『プラネット・アース』を(新聞のおまけとして)無料で配ったことに象徴されるように、違法ダウンロードや違法共有サービスによりCDの売り上げが落ち、音楽業界全体がネガティブな雰囲気に包まれていた時期です。
ちなみにこの『プラネット・アース』の3か月後に、レディオヘッドが『IN RAINBOW』を投げ銭スタイルで実質無料で配布してました。

アーティストはアルバムの売り上げではなく、巨大なスタジアムツアーで収益をあげることが増え、CDはツアーのための販促グッズのような言われ方をしていました。

「Albums Still matter(アルバムはまだ重要だよ)」と言ったのは、『Welcome 2 America』より少しあとの2015年グラミー賞授賞式でのことですが、晩年のプリンスは「素晴らしい音楽が世間から正当に評価されていない」ということをたびたび言っていたように思います。

マイケル・ジャクソンが亡くなったのも2009年。

メガスターに熱狂したかつての時代は名実ともに終わり、もう戻ってこないことを(当事者である)プリンスは強く意識していたんじゃないかと思います。

『Welcome 2 America』はそんなプリンスの「終わりのはじまり」を記録したという意味では貴重なレコードなのかもしれません。