Tyshawn Sorey live at Village Vanguard

今回はこのブログでは初のライブレビュー

2021年2月5日から3日間行われた、ニューヨークのジャズクラブであるヴィレッジ・ヴァンガードで行われたタイショーン・ソーリー(TYSHAWN SOREY)のライブについて書きました。

Personnel
TYSHAWN SOREY – DRUMS
JOE LOVANO – SAXOPHONES
BILL FRISELL – GUITAR

ニューヨークはいまだコロナ禍の中にあり、こちらのライブもストリーミング配信です。チャージは10$(希望の人はドネーションを足して入金できる)

このグループは、いまでは伝説級のグループとも言って良いポール・モチアン・トリオへのオマージュとして結成されており、モチアンの代わりにタイショーン・ソーリーがドラムを担当しています。

SNSでも、多くのライターやミュージシャンがこのライブについて話題にしていてました。ジャズライターのネイト・チネン、元バッド・プラスのイーサン・アイバーソン、Pi Recordingsのセス・ロズナーなどですね。自分も彼らの投稿でこのライブの存在を知りました。
それだけかつてのポール・モチアン・トリオの印象が強烈で、今回のライブがエポックメイキングだったということですかね。

ポール・モチアン・トリオ

80年代後半からポール・モチアン・トリオが亡くなる2011年まで、このトリオは不定期にアルバムリリースとライブを行ってきたようです。その間にロヴァーノもフリゼールもビッグネームになっていったのですね。

フリゼールのディレイを使いスペースをうまく活かしたバッキングを演奏し、ロヴァーノがイマジネーション豊かなフレーズでそのスペースを埋めていくところがこのトリオの良さ。
「On Broadway」というタイトルでスタンダードナンバーを斬新なスタイルで取り上げたアルバムは、(スタンダード好きな)日本の雑誌などではよく紹介されていたと思います。

そのモチアン・トリオのアルバムの中では、1995年リリースの『At The Village Vanguard』は全編オリジナルナンバーを演奏したライブ盤で、スタンダード演奏という制約が無いぶんこのトリオでやりたかったことが最もわかるアルバムじゃないかと思います。

そして今回のヴィレッジ・ヴァンガードでのライブも(少なくとも初日は)モチアンの書いたオリジナル曲中心で、この1995年のアルバムに近いテイストですね。

ストリーミングライブ

ライブ本編の話ですが、コロナ対策のためにMCなどは全く無く、いきなり演奏スタート。ソーリーとフリゼールはマスクをしたままの演奏です。
特にソーリーはマスクをしたままでちょっと息苦しそうでしたね。

かつてのモチアン・トリオと比べると、フリゼールはエフェクトをかけたロングトーンは控えめで良く言えばオーソドックススタイル。とはいえ音数は少なくいわゆるジャズのバッキングとは全然違いますが。
ソーリーは頻繁にスティックを持ち替えながら、かなり細かいテクニカルなドラミングを聴かせてくれていて、(かつてのモチアンのように)音数が少ない時のドラムでの表情の付け方が絶妙だな、と思います。
また逆に激しくドラムを叩くパートでは驚異の手数で音を埋めつくしていて、こういうタイプの演奏はポール・モチアンには無いソーリーならではの良さですね。
そしてロヴァーノはロヴァーノ。特にソプラノで饒舌に吹くところなどはすごくカッコよかったです。

いやホント、見逃さなくて本当に良かったなと思うライブでした。

タイショーン・ソーリー

このライブはいちおうソーリーがリーダーという扱いらしいのですが、このライブに先立ってNYタイムスにソーリーについての記事が載っていましたので紹介。

両親の離婚と母親との不幸とも言える子供時代、黒人男性としての疎外感、ミュージシャンではなくドラマーとしてしか見られないことへの焦燥感など、ソーリーについてかなり詳しく書かれています。

ニューヨークはコロナの影響が最も大きかった都市であり、大きな体でしかも喘息持ちでもある彼にとっては「自分もコロナで死んでしまうかもしれない」という恐怖に苛まれたつらい年だったようです。
記事内ではマッコイ・タイナーの訃報に激しくうろたえる様子がつづられていました。

ストリーミング配信

ニューヨークのジャズクラブのいくつかはロックダウン中にストリーミング配信に取り組んでいることは知っていたのですけど、あまりチェックはしていませんでした。
今回のようなレアなグループが日本にいながら観られるということはかなり貴重な体験ですね。

ただ、今のコロナによるロックダウンが解除された後もいまのようにストリーミング配信を続けてくれるのかは良くわかりませんね。ロックダウンが解除になると、店に来てくれるお客が減るからストリーミング配信しないという判断になるかも。

でもチケット完売になって観れない人が出るような注目のライブについては、今後もストリーミング配信も続けてほしいなと思いますね。