ニューヨークのアヴァン系アルトサックスプレイヤーのティム・バーンが、自身のグループSnakeoilの新作アルバム『The Deceptive 4』をリリースしています。
ティム・バーンは、今年2月にも『The Fantastic Mrs.10』というアルバムをリリースしていて、このアルバムも素晴らしい出来だったのでブログに感想を書きました。
Snakeoilとしてはかなり短い間隔で立て続けにリリースされたことになりますね。
Personnel
Tim Berne: alto saxophone
Matt Mitchell: piano
Oscar Noriega: clarinet
Ches Smith: drums
『The Deceptive 4』は2枚組のライブアルバム。
1枚目 (Track 1 – 4)は2017年のレコーディングで、2~4曲目はJulius Hemphillの曲を取り上げています。バーンのライブでヘンフィルの曲を演奏することは多そうなので、ライブ向けのセッションをスタジオライブとしてレコーディングしたのかも。
2枚目は (Track 5 – 8)は2010年と2009年という、このグループがまだSnakeoilという名前がついていなかった頃のライブです。
アーカイブ的な意味合いの強い音源なのですが、こういう音源がリリースされるのも明らかに新型コロナの影響でNYのジャズシーンが停滞してしまった影響ではあると思います。
SnakeoilはかつてはECM所属でしたが、『The Deceptive 4』からIntaktレーベルに移籍していて、このレーベルのフットワークの軽さのあらわれなのかなとも思います。
もしECMレーベル所属だとしたらこういうアルバムがリリースされることは無かったと思いますし。
アコースティックSnakeoil
当初からこのSnakeoilというグループはベースレスの音というコンセプトがあって、ベースレス編成が持つ「軽さ」をどうカッコよく鳴らすか、みたいなところがこのグループの聴きどころだったような気もします。
ベースがいないスペースを、どう他の楽器が埋めていくか、みたいな聴き方もできるんじゃないかと。
単純にピアノの左手がベースを受け持つ、みたいな安易な方法に頼ることはしないグループだったのだと思います。
そういう意味では、この『The Deceptive 4』の2管フロント+ピアノ+ドラムという編成は、もっともベースレス編成の面白さを楽しめる編成なのかもしれないですね。
その後、Snakeoilは徐々にギタープレイヤーが参加したり、マット・ミッチェルがピアノだけでなくウーリッツァーやエレクトロニクスを使ったりと、グループとしては分厚い音へとシフトしていくことになり、ベースレスっぽさは薄れていくことになります。
これはアコースティックのベースレス・カルテットが不満だったとかいうわけではおそらくなくて、バーンが好きな細かな共演者の入れ替えの結果だと思いますね。
同時並行でバーン(sax)、マルク・デュクレ(guitar)、トム・レイニー(drums)というベースレスのトリオも活動していて、シャッフルしたのだろうと。
それにしても、このアルバムでもバーンがサックスで吹くインプロのセンスは最高ですね。
最近、ティム・バーンとScrewgunレーベルのオーナーとの対談動画を見たのですが、その中で興味深かったのは、バーンは「ソニー・ロリンズには影響を受けた」といい、「メロディアスなインプロが重要だと繰り返しコメントをしていたことでした。
案外、本人としてはロリンズのようなバップのホーン奏者の演奏を(特にメロディアスな側面から)強く意識しているのかなとも思ったりします。
ちょっと意外ではありましたけど。
インプロをリアルタイムで行う作曲だと考えれば、バーンは最高のメロディーメイカーだと言えるし、ミュージシャンは突き詰めればその点のみで評価されるべきだとは思うのですけどね。
奇抜な選曲とか、他の音楽ジャンルとのミクスチャー具合とか、そういったポイントはミュージシャンの評価としては些末な点だと思いますしね。