まだ誰もあの時のプリンスに追いつけない

プリンスの最高傑作との呼び声も高い、1987年作の2枚組アルバム『サイン・オブ・ザ・タイムズ』が、2020リマスターで、63曲もの未発表音源を含む8CD+DVD仕様のスーパー・デラックス・エディションで登場!

プリンスが2016年に亡くなった後、膨大な量の(莫大な利益を生む)音源の権利についてプリンスエステート(財団)と遺族の間でなんだかごちゃごちゃと争いをしていた印象でしたが、2019年の『The Originals』、同じく2019年の『1999』のデラックス・リイシューと、最近になってコンスタントに音源をリリースしてくれるようになってきたようでうれしい限りです。

そんな中、今年2020年にリリースされた『サイン・オブ・ザ・タイムズ』スーパー・デラックス・エディションは、プリンスの死後リリースされた音源の中でもっとも注目を浴びている音源じゃないでしょうか。
このアルバムリリースに合わせて『サイン・オブ・ザ・タイムズ』リリース当時のプリンスについて解説した雑誌の特集やムック本などたくさんですね。

『サイン・オブ・ザ・タイムズ』がリリースされた1986年あたりはちょうどレボリューションを解体した時期ですが、プリンス自身は創作アイデアが次から次へと湧き出ていて、ひとりで全ての楽器を演奏してどんどんレコーディングしていた時期でもあります。
プリンスはキャリアを通じてかなりワーカホリックなことは知られていましたけど、その中でもこの時期の仕事量はちょっと異常ないくらいです。
この膨大なマテリアルをもとに、LP2枚組『Dream Factory』、『Camille』、LP3枚組『Crystal Ball』というアルバムのリリースを構想していたようです。

ただ当時のレコード会社は短期間に(しかも2枚組、3枚組というボリュームの)アルバムをリリースすることに難色を示したため、この時のマテリアルは厳選され『サイン・オブ・ザ・タイムズ』というアルバムに集約されていくことになります。この時に経験した自らの作品をコントロールできないもどかしさが遠因となって、のちのワーナーとの決別や自身のレーベル設立につながってくるようです。
その後に、この時期の楽曲を新たにコンパイルした『Crystal Ball』がリリースされましたが、大部分の曲はお蔵入りとなっていました。

そのお蔵入り楽曲が、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』スーパー・デラックス・エディションという形で全て聴けるようになったということです。
リリースを見送られた『Dream Factory』、『Camille』というアルバムはブートレグが出回っていたようですが、今回はそのブートレグでも未発表だった曲を含む、まさに完全版ということのようです。

『Purple Rain』や『1999』のデラックスエディションの未発表音源は、どちらかというとアウトテイク集といった感じでマニア向けという印象でしたけど、わたし今回の『サイン・オブ・ザ・タイムズ』はまさに正式にリリースされる予定だったアルバムクオリティの曲ばかり。
熱心なファンはすでに『Dream Factory』、『Camille』といったアルバムをブートレグで入手しているのでしょうけど、わたしなんかはブートレグを漁るほどではないので、今回が初聴きです。

未発表音源はたくさんありますが、曲じたいが初出しの音源を集めたプレイリストはこちら

今回の『サイン・オブ・ザ・タイムズ』は、完全未発表曲や過去にどこかのアルバムに収録されていた曲が混在していて、めちゃくちゃわかりづらいのですが、海外のこのHPは情報量が多くてわかりやすいです。プリンスファンにはおなじみのサイトなのかも。

たとえば、今回の未発表曲のうち1曲「Emotional Pump」についての記述では

「Emotional Pump」は、1986年10月16日にカリフォルニア州ハリウッドのサンセット・サウンドで録音された曲。
プリンスに多大な影響を与えたカナダのシンガーソングライター、ジョニ・ミッチェルのために書かれた曲である(少なくとも当初は)。彼女の元に送られたが、彼女は自分のスタイルに合わないと思い、プリンスには「私には歌えない」と言っていた。
といった興味深い解説も読めます。

わたしはあまり曲の背景とかは気にしない方だと思うしライナーノーツもいらない派なんですけど、こういう貴重な情報を読むのは面白すぎます。

で、肝心の未発表曲の出来栄えについて

えー、これはもう文句なく最高です。
プリンスのアルバムクオリテイの音源をはじめて聴くという体験はこの上ない幸せな体験ですね。
2020年にリリースされたどんなブラックミュージックよりも聴く価値があると思います。2020年の誰もこの時のプリンスに追いつけていない。

オリジナルの『サイン・オブ・ザ・タイムズ』というとドラムなどの電子音、あとはきらびやかなシンセが特徴で、個人的にはこの辺の音作りには違和感を感じてはいました。
この後に『Love symbol』などニュー・パワー・ジェネレーションを従えたバンドサウンドへと移行するのですが、どちらかというと移行後の方が好み。
今回、新たに発表された曲はというとあまり過剰な音処理はされていなく、ドラムなども生音に近く、オリジナルの『サイン・オブ・ザ・タイムズ』の曲よりも今回の未発表曲のアレンジの方が好みかも。

プリンスの未発表音源の蔵出しは、なんとなく1年に1回くらいのペースになりそうで、古い音源から順にリリースしているような印象はあります。
とすると、これから『Love symbol』とか『Diamonds and Pearls』とか個人的にはいちばん大好きなニュー・パワー・ジェネレーション時代のマテリアルがそろそろリリースされるんでしょうか。
いやもう、そうなったら胸熱だなぁ