シャクティ『This Moment』

ギタリストのジョン・マクラフリンとタブラ奏者のザキール・フセインを中心に結成されたグループ、シャクティの新作アルバム『This Moment』が、ついにリリースされました。

シャクティついては、過去にもこのブログでも取り上げています。

新作アルバムでもないのにブログで取り上げるというのはあまりない事ですが、それだけわたしにとっては別格な存在だということです。

例えるなら今作は、ビートルズやマイケル・ジャクソン、プリンスといった人たちが新作をリリースする、くらいのインパクトがある話ですよ。

今回のアルバム『This Moment』ですが、この作品のリリースを「ついに」と表現するのは誇張でもなんでもありません。

長らく休止状態にあったシャクティのリユニオンコンサートの情報が最初に出されたのははるか昔、2019年10月9日のこと。

おそらく2020年に大規模なワールドツアーとアルバムレコーディングを予定していたはずで、実際にコルカタなどでお披露目コンサートは実施されたのですが、その後の予定はコロナパンデミックで全てキャンセルとなってしまったようです。

そして行動制限の緩和された2023年、この時にやる予定だったワールドツアーとアルバムレコーディングをあらためて行い、3年越しにアルバムが聴けることとなったわけです。

※ちなみに2020年のシャクティ再結成が無くなったマクラフリンとザキールは、シャクティのもうひとりのメンバーであるS.マハデヴァンを加え、世界各地で録音された音源をミックスするという手法を取り、『Is that so?』というスピンオフ作品を作っていましたね

その時も「みんなで同じ土地に集まらなくてもノープロブレム」と言っており特に支障はなかったようなので、今回の『This Moment』でも、アメリカ、モナコ、インド、イギリスなど世界各地で別録りでレコーディングを行い、その音源をもとに制作されたようです。

『This Moment』

アルバムの感想としては、「全曲すべて最高ですね」で終わらせたいところですが、いくつか気づいた点を。

シャクティの現行メンバーは、2000年にリリースされた『The Believer』のメンバーとほぼ変わっていないのですが(U SrinivasのみGanesh Rajagopalanに交代)、『The Believer』はライブアルバムだったため、今回の『This Moment』は現行メンバーによる初めてのスタジオアルバムとも言えます。

そのため今回のアルバムでは、各メンバーの長尺なソロもあまりなく短いソロをバシッと決めて終わる曲が多くて、1曲がコンパクトにまとめられている印象です。

おそらくライブでは同じ曲でも演奏時間を2倍3倍に延ばして、各メンバーのソロをたっぷり聴かせる構成にするんだろうと思います。

また本作は、これまで以上にシャンカル・マハデヴァンのヴォーカルにフォーカスが当てられている印象です。

特にイントロの部分で、マクラフリンがMIDIギターで弾くスペイシーでニューエイジミュージックっぽいシンセ音をバックに、マハデヴァンがドラマチックに歌い上げる場面は聴きどころ。

シャクティも70年代から考えると数多くのメンバーが参加してきたのですが、その中でもマハデヴァンがいるといないではガラッと印象が変わるくらい、シャクティの音を特徴づける存在になっていますね。

今回収録されている曲のパターンとして、イントロが終わった後にザキールとセルヴァガネシュの2人のパーカッション隊が加わるのですが、(70年代シャクティのような)限界突破したスピード感のある演奏というよりも、むしろ控えめというか、何が演奏されているのかリスナーにも聴き取りやすくなっていますね。
これまでは2人同時に叩くことも多かったですけど、今回はどちらか一人が叩くシーンが多かったような気もします。

あとカナッコル(「タ・カ・ディ・ミ」みたいに南インドリズムを口ずさむこと)もけっこう頻繁に出てきます。
これまでのライブでもカナッコルは定番でしたけど、どちらかというと余興っぽいというかライブでのエンタメ要素という印象でしたけど、今作ではカナッコルのカッコ良さが曲の構成にしっかり組み込まれている感じでした。

というわけで、今回はスタジオアルバムならではの魅力もたくさんで、シャクティの新たな一面が垣間見れる作品になってましたね。

でもアルバム1枚1時間じゃ物足りない、ぜんぜん足りない。

いまのワールドツアーが終わったらきっとライブアルバムも出るよね?

余談

この『This Moment』ですが、2023年6月にリリースされた時点では、ストリーミングでは聴けず、CDやBandcampなどで購入可能な状態です(わたしはBandcampで購入しました)

Apple Musicではアルバムじたいは表示されているのですが、グレーアウトされて聴けない状態です。
これはおそらくストリーミング公開をCDなどのリリースからしばらく遅らせる販売方法じゃないでしょうか。
※こういうのって他ではあまり聞きませんが、マクラフリンも参加したスーパギター・トリオの発掘ライブ音源『Saturday Night in San Francisco』も同じような感じで、リリース当初は聴けず、知らない間に公開されていましたね。