ネイト・ウーリー『Seven Storey Mountain VI』レビュー

 

去年2020年にリリースされたアルバムの中で気になっていたアルバム、トランペッターのネイト・ウーリー(Nate Wooley)の『Seven Storey Mountain VI』の紹介。

ネイト・ウーリーというとゴリゴリのフリー・即興系のトランペットを吹く人という印象だったのですが、これまであまりちゃんと聴いたことはなかったかも。
彼は「トランペットによる演奏テクニックを拡張してその可能性を押し拡げ、奏法を再定義しようと試みている」といった紹介のされ方をされていることが多いプレイヤーですね。
よくトランペットを分解したり、再構築したり、トランペットに向かって叫んだり、トランペットの近くで囁いたりしていますし。
立ち位置的に近いのはピーター・エヴァンスかも(ウーリーとエヴァンスは共演歴ありますし)

そういった立ち位置のミュージシャンでもあるので、トランペットソロによるアルバムを作ったりとか、完全即興の(いつ終わるともしれない即興が延々と続いたりするような)アルバムとかも多いのですよね。
曲のタイトルもただ「1.」とか「2.」とかナンバリングだけ、みたいなそういうイメージ。

個人的にはそういうタイプの音楽には抵抗がない方だと思いますけど、それなりに聴くのに集中力も必要かな、と。

そんなネイト・ウーリーですが、彼のメインプロジェクトのひとつとして続けられているのが「Seven Storey Mountain」です。今回の『Seven Storey Mountain VI』はその6枚目。
「Seven Storey Mountain」とはアメリカのカトリック司祭トマス・マートンの自叙伝のタイトルから取られているらしいです。青年期のカトリックへの回心が綴られている本とのこと。「神とは?人とは?罪とは?」みたいな。
そういうコンセプトから、全体的に宗教的なモチーフをシリアスに表現したプロジェクトになっています。

Seven Storey Mountain プロジェクト

このプロジェクトは2009年にはじまり、初期はポール・リットン(パーカッション)とデヴィッド・グラブス(ハーモニウム)とのトリオでアルバムをリリースし、その2年後にはC.スペンサー・イエ(ヴァイオリン)とクリス・コルサーノ(ドラムス)と組んだトリオにメンバーチェンジをしています。
初期はノイズ/ドローンっぽい音で、例えるならMerzbowとかああいった雰囲気に近い作風でしたね。

Part.Ⅲ &.Ⅳごろから徐々に参加メンバーが増えるのですが、逆に音は削ぎ落とされ耳ざわりなノイズ音は控えめになりミニマルさと宗教的な荘厳さが絶妙にミックスされた音になっていきますね。
Part.Ⅴも、基本は前作か路線を踏襲していてミニマルなテイストは残っているのですが、チベットのシンギングボウルのような鈴の音が随所に挟まれたりしてチラッとニューエイジっぽいテイストもあり。

そういった変遷を経て2020年にリリースされたPart.Ⅵですが、まず耳につくのはオープニングとエンディングで歌われる、教会の聖歌隊を強くイメージさせるヴォーカル(コーラス隊)です。
ここで歌われるのはアルバムのジェケットにも印刷されている、ペギー・シーガーのアルバム『Different Therefore Equal』に収録されている “Reclaim the Night “という曲の歌詞です。

この”Reclaim the Night “は、「楽園のイブはアダムのあばら骨から作られた」という冒頭からも明らかなようにジェンダー/フェミニズムについてのメッセージを歌った曲です。
3人のコーラスは最初は言葉のない鼻歌を歌うのですが、エンディングでは”You can’t scare me “といった女性の叫びとも取れるフレーズをマントラのように繰り返す非常に荘厳なエンディングになっていますね。

こういったコンセプトのアルバムなので、意図的にメンバーのちょうど半数が女性というメンバー構成がとられたようです。

Personnel
Drums – Ben Hall, Chris Corsano, Ryan Sawyer
Electric Guitar – Ava Mendoza, Julien Desprez
Keyboards – Emily Manzo, Isabelle O’Connell
Pedal Steel Guitar – Susan Alcorn
Trumpet – Nate Wooley
Violin – C. Spencer Yeh, Samara Lubelski
Voice – Mellissa Hughes, Yoon Sun Choi, Megan Schubert

もうひとつ特徴的なのはキーボード/シンセが効果的に使われている点ですね。
こういうコーラスとシンセの重厚な組み合わせを聴くと映画音楽のハンス・ジマーが有名ですけど、この『Seven Storey Mountain VI』を聴くとジマーがスコアを書いた映画『インターステラー』のサントラを連想させる箇所もあります(このサントラは名盤)

Pyroclastic Records

ウーリー自体は多作な人で、これまではClean Feed RecordsやRelative Pitch Recordsといったインディー系のレーベルからよくアルバムをリリースしていたのですが、このアルバムはピアニストのクリス・デイビスが設立したPyroclastic Recordsからリリースされています。
このPyroclastic RecordsからリリースされたベーシストのEric Revisのアルバム『Slipknots Through A Looking Glass』が、雑誌が選ぶ2020年のベストに頻繁に選ばれていたりして良く名前を聞くようになりました。

『Seven Storey Mountain VI』のような、ある意味ではとても売れそうにないアルバムを扱ってくれるという意味でも、ミュージシャンの中でPyroclastic Recordsの存在感は高まっているのかもしれないですね。