ピーター・エヴァンス × サム・プルータ『Two Live Sets』

このブログでいちど、サックス奏者Jon Irabagonのことを取り上げたのですけど、Irabagonがきっかけで(彼が参加していた)Mostly Other People Do the Killing(MOPDtK)というグループに興味が出てきて、そこからこのグループのもうひとりのフロントマンであるトランぺッター、ピーター・エヴァンスのアルバムをここ最近良く聴くようになりました。

ピーター・エヴァンスの活動は実に多彩ですね。

クインテットのようなアヴァンギャルドなジャズから、ドラムスのWalter weaselとのハードコア作品、現代音楽ともいえるソロトランペットなどなど、多岐にわたっています。

そのエヴァンスが昨年リリースしたアルバム『Two Live Sets』は、作曲家/ラップトップアーティストのサム・プルータ(Sam Pluta)との共作でつくられていて、これはもう素晴らしいアルバムだと思います。
このコンビはもう10年以上も共演を続けていて、過去にスタジオアルバムも出していてるのですが、今回はライブアルバムのようです。

エヴァンスの演奏は、相変わらず何を演奏しているのかわからないくらいすごいのですが、いちおう前にもMOPDtKやカルテット演奏などを聴いて想定内ではありました。
やはりこのアルバムがスペシャルでユニークなのは、プルータのパフォーマンスですね。

ピーター・エヴァンスとサム・プルータのデュオは、こちらの動画のような感じ

”ドクター” サム・プルータ

プルータはコロンビア大学その他で現代音楽/電子音楽を学んだ”ドクター”であり、wikiによるとさまざまな現代音楽の作曲家に師事していて、ジャズフィールドではジョージ・ルイスからも学んでいるようです。

経歴を読むと完全に現代音楽の作曲家のようです。彼のソロ・アルバムなどは完全にクラシック/現代音楽ともいえます。
現在は、マンハッタン音楽大学で教授として作曲と電子音楽を教えているようです。

作曲家/インプロヴァイザー

プルータの活動はコンポーザーとインプロヴァイザーの2つの側面があって、そのどちらの活動にも表現ツールとしてコンピューターやアナログシンセの電子音を使っています。

エヴァンスとの共演『Two Live Sets』は、プルータのインプロヴァイザーとしてのパフォーマンスが聴けます。
ここではラップトップベースのシンプルなセッティングの演奏のようです

ラップトップを使う場合、録音マテリアルをループ再生したりもできますし、反復するフレーズを多用する現代音楽とは相性が良いとは思うのですが、動画をみてもわかるように、基本的にはそういう録音された音のプレイバックは行わず、その場で自分でキーを操作していますね。

こういうのは楽器奏者のマインドなのでしょうね。
ピッチから波形の種類からフィルターの周波数まで、すべてをその場で、リアルタイムに、自分の手でコントロールしたいという欲求なのでしょう。

瞬時に音をコントロールできるように、ホワイトノイズやノコギリ波といったシンプルな音が選ばれているし、音響処理もフィルターなど基本的なものに限定しているようです。
ちなみに音響合成ソフトとしてはSupercolliderを使っていますね。

またソフトウェアのコントローラーとしては、六角形のマルチタッチセンサーを6×8=48個ならべたMantaという珍しいデバイスを使っているみたいです。

Manta: a next-gen, touch-sensitive controller | MusicRadar
四角いパッドを縦横に並べるよりも押さえやすいんでしょうかね?
おそらく三角に隣り合うボタンを押すと、ダイアトニックコードが鳴るようにしているのだと推測。

話はそれますが、こういうこういう古めのレガシーなデバイスを長く使っているというのはすごくカッコ良いですね。サブ的にはタブレット端末をコントローラーで使ったりもしているようですけど。
こういう即興演奏のフィールドでラップトップを使ったパフォーマンスを行うミュージシャンというのは、思ったより多くないですね。
たとえばカール・ストーンとかイクエ・モリとか。(プルータはイクエ・モリさんとは共演もしているよう)

即興演奏でレスポンス良く頭の中の音を鳴らすのはかなり難しいと思いますけど、たとえばエヴァンスは超人的なテクニックでそういった足かせを克服しているのに対し、プルータはソフトウェアのセッティングと、カスタムされた奇抜なデバイスを使って、それを高いテクニックでコントロールすることで、鳴らしたい音を鳴らしているように感じます。

動画をみても、プルタのように複雑な指使いでコントローラーを操る人ってなかなかいないかも。

ストーンもイクエ・モリさんも基本的にはミニマルに音をそぎ落としていきつつサウンドをつなげていくタイプなので、たとえばカール・ストーンとかイクエ・モリさんとかは、ステージ上でほぼ何もしていないように見えるときもありますしね。

プルータは自身の電子音のみのソロパフォーマンスというのはほとんど行っていないようなのですが、ソロになった場合にどういうサウンドになるのか聴いてみたいですね。