リアノン・ギデンズ『You’re the One』

個人の感想ではないアーティストの価値を語る時に、「世間の人気」と「評論家などの評価」があると思うのですが、こと「評価」に限って言えばリアノン・ギデンズ(Rhiannon Giddens)ほど高い評価を受けている演奏家は、今の音楽界を見渡してもなかなか見当たらないんじゃないでしょうか

マッカーサーフェロー受賞、アメリカの奴隷制をテーマにしたオペラ『オマール』でのピューリッツァー賞の受賞、そして複数のグラミー賞などなど。

またヨーヨー・マに変わり、シルクロードアンサンブルの音楽監督に就任するなど、すでに演奏家としての「格」というかオーラのようなものも身にまといつつあるようです。

今回のアルバム『You’re the One』は、そんな彼女の初の全曲オリジナルとなるソロ3作目。

ソロ3作目ということですが、これまでは近年の2作はFrancesco Turrisiとの共作という形でしたからソロではないということみたいです。

彼女の音楽はというと、アメリカの古き良き音楽に再び光をあてることで鮮やかに浮かびあがらせることに成功したのだと思います。
ルーツ・ミュージックでありながらも新しい音楽。

そういえば、ギデンスはアメリカの老舗ジャズ雑誌「Downbeat」の批評家投票の中の「Beyond Artist or Group」に何度も選ばれていますね。

今回の『You’re the One』というアルバムはの特徴としては、アルバム紹介文で使われているこの文章がすべてを物語っているようです。

ただアメリカの音楽を聴いてほしい。ブルース、ジャズ、ケイジャン、カントリー、ゴスペル、ロック、すべてがここにあります。楽しい曲だから、私の仕事を知らない人たちにも聴いてもらいたかった

つまり、これまでの彼女の活動を俯瞰してまとめたようなアルバムになっていて、まるで時代の「1歩先」を行っていた彼女が「半歩先」まで、少しだけ近づいてきてくれた印象です。

聴いてみた印象もかなりポップで、例えばシェリル・クロウのような大きな会場で聴いても違和感ないようなポップな出来になっています。.

卓越した楽器演奏などの斬新さなどはこのアルバムからは感じられないのですが、ギデンスのソングライティングの力量と、高揚感の感じさせる演奏がうまくミックスされていると感じます。

正直、これまでのギデンスのアルバムはシリアスすぎるところがイマイチ感情移入できなかったのですが、このアルバムはすばらしくて何度も聴いてしまいますね。