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PLEDGE MUSICの破産とTzadikレーベルの危機

プレッジミュージックの破産

先日、ジョン・ゾーンのTzadikレーベルのHPを見てみると、未発表音源のリリース情報が載っていました。

どうもこのリリースは、PLEDGE MUSICというクラウド・ファンディング・サービスが資金繰りに困り破産してしまい、その影響でTzadikレーベルが経済的損害を受け、その穴埋めとしてリリースされるとのこと。
Tzadikレーベルの損害額は197,559ドル(約20万ドル)というかなりインパクトの大きいもの。

うーん、この話はけっこうニュースになっていたのですね。チェックしていませんでした。

Book Beriah(第三期マサダ)の11枚ボックスセットのディストリビューションを行った、クラウド・ファンディング・サービスのPLEDGE MUSICを使用していたそうなのですが、2019年にこのPLEDGE MUSICの破産したことによって、このボックスセットの販売による収益が支払われないことになりそうとのこと。

参考記事
クラウドファンディングのプレッジ・ミュージック、資金未払い問題について新たな声明を発表

プレッジミュージックというのは2009年にイギリスで設立された音楽に特化したいわゆるクラウドファンディングサイトで、設立当時はクラウド・ファンディングという業態への期待から資金を調達することもできたようです。

これまでスラッシュ、ジョーン・オズボーン、ジュリアナ・ハットフィールドなどの有名アーティストがこのサービスを利用して資金を調達し、アルバム制作からツアー費用などをまかなってきたようです。

実際は2018年くらいから運営資金が足りなくなってきて、事業の売却先を探していたようですが結局引き受け先が見つからず、2019年になって破産となってしまったのです。
本来は音楽制作にあてられるべきリスナーからの投資を会社の運営資金にまわすという、クラウドファンディングらしからぬ運営方法をとってしまったんですね。
資金繰りが苦しくなってリスナーが支払った投資額がアーティストに渡らない可能性が出てきた段階になっても、ずっとリスナーからの投資を募っていたのですから、かなり悪質と言って良いのかも。

プレッジミュージックの破産はクラウドファンディングによる音楽分野の資金調達に関して信用を失わせる結果となり、Kickstarter社にあった同様の音楽クラウドファンディング部門が閉鎖になるなどの影響も出ています。

プレッジミュージックの資金繰り悪化にはサブスクサービスによる影響などもあるのかもしれませんが、大手メジャーでアルバム制作できなかったミュージシャンがアルバムを制作する方法のひとつが、こういう形で信用を失って事業として成り立たなくなるというのはあまり良いニュースとは言えないかも。

Tzadikレーベルが負う20万ドルの損失

プレッジミュージックでは、まずミュージシャンは自腹でアルバムを制作し、あとからプレッジミュージックを通じてリスナーの投資金を受け取るシステムになっていたようで、プレッジミュージックの破産によって多くのミュージシャンがアルバムの制作資金を回収できない状況になっているようです。

前述のようにジョン・ゾーンのBook Beriah11枚ボックスセットもこの影響を受けたのですが、ゾーンにとってはかなりアンラッキーな出来事だったとも言えます。

ゾーンは普段はTzadikレーベルでアルバム制作資金はまかなってきていて、今回は11枚組というボリュームのためにたまたま特例でプレッジミュージックのプラットフォームを利用したみたいですから。
そのたまたまのアルバム制作時期と、プレッジミュージックの破産がタイミング的にかぶってしまったかたち。

Tzadikレーベルの運営を行う杉山和紀さんも2019年初頭に「どうも雲行きが怪しい」と気づいたそうですが、その時点ではもう時すでに遅しという状況だったのですね。
20万ドルという損失額も他のミュージシャンと比べてもかなり高額になっているようですね。

拡がる支援の輪

ゾーンは自らのレーベルTzadikで、レコード会社などの干渉を受けることなく、採算を考えて売れるCDを作らないといけないという制約もなく、自ら良質と考える音楽を自主的リリースし続けることに成功してきたミュージシャンです。
Tzadikで働く人は3人だけという話も聞いたことがあるし、レーベルがCDの売り上げで予算的に潤っているなんていうことはなさそうで、ほとんど非営利事業のようですが、そういうTzadikが今回のような経済的損失を負うというのは悲しいことです。

プレッジミュージックの破産を受けて、ゾーンは
「私は常にプランBを持っているよ。何か問題が起こっても、クリエイティブな方法で解決策を見つけるつもりなんだ」
と語っており、そのプランBが未発表音源のアナログレコードでのリリースとのこと。

このアナログレコードの作成には、音楽制作会社のSarah Robertsonがレコードプレス費用を無料で行うと申し出たり、マスタリング(Scott Hull)やアルバムデザイン(Heung-Heung Chin)をボランティアで行うなど支援の輪も広がっているようです。

以下のようなアルバムがリリースされるので、アナログレコードファンの方は支援だと思って購入してみてほしいです。

The Best of Sanhedrin:
John Zorn(sax),Dave Douglas(trumpet), Greg Cohen(bass), Joey Baron(drums)

Alhambra Love Songs:
Rob Burger(piano),Greg Cohen(bass),Ben Perowsky(drums)

Nove Cantici Per Francesco D’Assisi:
Bill Frisell, Julian Lage and Gyan Riley(guitar)

The Last Judgment by Moonchild:
Mike Patton(vocal), John Medeski(organ),Trevor Dunn(bass) Joey Baron(drums)