「このミュージシャンの存在を知らなかったら、自分が聴く音楽はおそらく今とはずいぶん違ったものになった」
そう言えるくらい影響を受けたミュージシャンというのは数人しかいないと思うのだけど、ピーター・ガブリエルは間違いなくその数少ないミュージシャンのひとりです。
音楽を聴きはじめた(まだCDを買っていた)頃に聴いた アルバム『So』 『Us』 と彼が主催したReal World レーベルがなければ、おそらく今のようにいわゆるワールドミュージックを聴くことはなかったと思います。
そんなP・ガブリエルが、アルバムとしては2002年の『Up』以来となるアルバム『i/o』をリリースしました。
2023年の長い期間をかけて満月のたびに新曲をリリースするという特殊なスタイルでリリースされた本作。
リリースされた曲には、マーク・”スパイク”・ステントのリミックスによる「ブライト・サイド」と、チャド・ブレイクによる「ダーク・サイド」というラベリングがされていました。
また2023年末になってフィジカル3枚組のアルバムとしてリリースされた際には、全ての曲について、「ブライト・サイド」「ダーク・サイド」、ドルビー・アトモス処理?された「イン・サイド」という3パターンのバージョンが聴けるようになっていました。
プロデューサーはP・ガブリエル作品おなじみのブライアン・イーノ
そしてメインとなるミュージシャンは、ベースのトニー・レヴィン、ドラムのマニュ・カッチェ、ギターのデビッド・ローズと、『So』 『Us』時代からアルバム制作からワールドツアーまで長く共演を続けてきた3人が担当しているようです。
1stシングルである「Panopticom」がリリースされた時に聴いた印象は「ガブリエルの初期ソロアルバムみたい」というものでした。
その後(満月ごとに)シングルがリリースされていったのですが、どの曲もわりと曲調は似ていて、クライマックスへ向けて徐々に盛り上がる、わかりやすく言えば「Here comes the flood」のような、過剰と言えるほどドラマチックな展開を持つ曲が多かった印象です。
こういうのがいわゆるアートロックと呼ばれたジャンルなのでしょうか?
P・ガブリエルの曲の中では、もっとブラックミュージックっぽさが感じられる曲の方が好きなので、このアルバムに収録されているのはどちらかというと”好みじゃない方”の曲なのですが、これもまたオーケーかな、と。
世の中の多くのピーター・ガブリエルのファンにとっては、おそらくこういうのが待ちに待ったタイプのアルバムなのかもしれません。
(私は「So」「Us」は最高のアルバムだと思うのですが、ファンの評価はそこまで高くないみたいだし)
2タイプのリミックスが聴けるのですが、これもストリーミング時代の産物という感じですね。
レコード・CD時代なら、普通にどちらかのバージョンを選んでアルバムを作っていたはずですし。
チャド・ブレイクのリミックスはロス・ロボスやラテン・プレイボーイズのようなはっきりとした音の分離や原音がわからないくらいの音処理をせず、そこまで過激ではなかったですね。
(チャドは初期のReal world レコードの名エンジニアだったみたいですが、Real worldでは当時からそこまで過激な処理はしていなかったみたいです)
正直、2バージョンを聴き比べてそこまで明確な違いはないようにも思えます。
満月ごとのリリースというのも、あまり世間の話題になりづらいリリース方法だった気がしますね。
1stシングルのリリースからフルアルバムのリリースまでの時間が空きすぎて、世間の関心はなかなか集まらなかった気はします。
このあたりからも、ガブリエル本人の意識としても自身のファンへ向けたリリースなのかもしれません。