『Mudang Rock』ジャズインプロ猛者4人による韓国伝統音楽 

Discogsで色々とCDを探していたら、ちょっと気になるCDを発見したのでご紹介

『Mudang Rock』(2018)

この曲はアルバム1曲目の「Orange Kut」

Personnel
Rudresh Mahanthappa (as)
Bill Laswell (bass)
Henry Kaiser (guitar)
Simon Barker (drums)

Mudangとは

最初にMudangについてちょっと紹介

Mudangとは巫堂と書き、日本ではムーダンやマダンと表記され、韓国でいうシャーマンの意味です。
マダン(女性が多い)は、悪霊払いや豊漁や豊饒を祈るときなどの儀式(クッ= Kut)を司り、ケンガリやチンといった楽器が打ち鳴らされる中で自らに神を憑依させ、トランス状態に入る中でお告げを行ったりするそうです。日本のイタコみたいな感じですかね。
マダンやクッといった慣習は古い迷信として衰退していったそうですが、儀式の中に韓国の伝統音楽が取り入れられていて、音楽として聴いても非常に興味深いです。
クッを収録したCDというのもいくつも出ています。

この動画はYouTubeで見つけた1987年、珍島シッキムクッの様子。かなりガチでディープな動画ですね。伴奏(と言って良いのかわからないですが)も素晴らしいです。

Mudang+Rock = マダン・ロック!

このアルバム『Mudang Rock』は、韓国伝統音楽をモチーフにした、4人のフリー・インプロ系のミュージシャンによるアルバムです。1曲目の曲名も「Orange Kut」ですしね。

このアルバムはHenry Kaiserが発案したような記事を読みました。
彼は韓国伝統音楽に詳しいようでこれまで『Invite The Spirit 』(1983)などのアルバムで韓国のミュージシャンと共演していますね。

ビル・ラズウェルもアルバム『Into The Outlands』で韓国のパーカッションアンサンブルであるサムルノリと共演したりもしています。彼はジャンルの守備範囲が驚異的に広いので当然、韓国の伝統音楽にも詳しいでしょう。

Simon Barkerというドラマーは初めて名前を聞きましたが、オーストラリア人で学校でジャズを教えているようなアカデミック畑の人らしく、20年以上も韓国の伝統音楽を研究しているらしいです。

ただ1人Rudresh Mahanthappaは、これまでの活動を見てもおそらく韓国音楽にそんなに馴染みがないんじゃないかと思うのですけどね。

聴きどころは BarkerとMahanthappa

実際にアルバムを聴いてみると予想以上に韓国伝統音楽っぽい音になっていますね。韓国伝統音楽っぽいパートとフリーインプロのパートが交互に、シームレスに移り変わっていくところなど、間の使い方がさすが手慣れている感じです。

いちばん韓国伝統音楽っぽさを演出しているのはSimon Barkerのドラムで、基本ドラムセットを使っているのですが音数少なくパーカッション風に使用しています。
他にはMahanthappaのアルトが韓国伝統音楽で使われるホジョク(ダブルリードの笛)っぽさを出しており、意外にも聴きどころとなっています。

絶え間ないフレーズでスペースを埋め尽くすいつものスタイルは封印し、ミニマルなフレーズでメロディーをつなげていくのですが、さすがプレイの幅が広いなと感心します。