Montparnasse Musique EDM × コンゴをミックスしリアルワールドからデビュー

リアルワールドレーベルが2021年に突如プッシュをはじめた、アルジェリア系フランス人プロデューサーNadjib Ben Bellaと、南アフリカ人DJ Aero Manyeloによるエレクトロニック・デュオ・ユニット、モンパルナス・ミュジック(Montparnasse Musique)

デビューシングル「Panther」はKasai Allstarsらコンゴの音楽グループを大胆にサンプリング・リミックスしたダンサブルな曲で、かなり中毒性があり何度もリピートしていました。

曲だけじゃなくてMVも印象的で、コンゴのストリートでお面をかぶってダンスする子どもたちが映されているのですが、スローモーションの動きと曲のテンポが不思議とマッチしていて、観ていて気持ちいい。

この映像はルノー・バレ(Renaud Barret)というドキュメンタリー監督が監督をしていて、彼はこれまでにも「Benda Bilili!」「Système K」といったコンゴのキンシャサで活躍するミュージシャンを追ったドキュメンタリー作品を撮っているので、コンゴの音楽に興味ある人は聞いたことある名前かも。

今回、彼らのセルフタイトルEP『Montparnasse Musique』が、リアルワールドXというリアルワールド傘下のサブレーベルからリリースされています。
「Panther」に参加していたKasai AllstarsとBasokinの他に、Konono Nº1、Mbongwana Star(Staff Benda Bililiのメンバーによる新バンド)など、コンゴミュージックのビッグネームが多数参加しています。

リアルワールドレーベルはたまにこういうクラブミュージックっぽいアルバムを作るのですが、数は少ないですが良いアルバムが多いですね。
エイドリアン・シャーウッド『Never Trust A Hippy』、ジャム・ネイションの『Way Down Below Buffalo Hell』とか、あとはJoiなどの在英インド/パキスタン系グループのアルバムとか。

CRAMMED DISC

ワールドミュージックの世界ではだいたい2000年代の中頃から、コンゴ音楽はブームのようになっていたみたいですね。Kasai AllstarsやKonono Nº1などは来日もしていたようです。
そういう訳でWEB記事や昔のディスクガイドで彼らのアルバムがよく取り上げられているのですが、個人的にはあまり好んで聴くタイプの音楽じゃないなとは思っていました。

このコンゴ音楽のブームというのは、ベルギーのクラムド・ディスク(CRAMMED DISC)というレーベルからリリースされたアルバムがきっかけのようですね。
当時話題となったコンゴの音楽グループは、ほぼすべてこのレーベルからアルバムをリリースしています。

クラムド・ディスクはベルギーのプログレバンドであるアクサス・マブール(Aksak Maboul)のメンバーが作ったインディーレーベルで、他にはルーマニアのタラフ・ドゥ・ハイドゥークスなどが有名かも。

タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの例でいうと、ローカルのいろんな場所からテクニシャンの演奏家を寄せ集めてグループを作っていたようですし、
「音楽プロデューサーが現地を旅している時に、偶然に今では忘れ去られてしまった伝説のバンドを ”再発見” する」
みたいなステレオタイプなイメージで、新聞記事や雑誌、果てはドキュメンタリー映画まで作ってマーケティングされていた気はしますね。言ってみれば作られたブーム。

そういう点はKasai All Starsのようなコンゴのグループたちも基本的には同じで、現地で演奏していたバンドそのままで世界デビューした訳じゃなさそうですし、かなりレーベル側の手の込んだポストプロダクションが施された音という印象です。

別にそういった「仕掛け」は音楽の良し悪しとは直接は関係ないとは思うのですけどね。それでもやっぱり何か違和感は残ります。マサイ族が裏の見ていないところで携帯電話を使ってることを知ってしまった感覚。
とはいえ、例えばブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブだって似たようなものですし、どのレーベルも似たようなものでクラムド・ディスクが他よりうまくやっただけ、とは言えるかも。

DJ /プロデューサーによるワールドミュージック

コンゴ音楽についてのネガティブなことを書いてしまいましたが、Montparnasse Musiqueの音楽はコンゴの音楽を大量にサンプリングしているだけで、コンゴ音楽とは似て非なるものではあります。ジャンル分けするならEDMになるんでしょうね。

おそらくプロデューサーのNadjib Ben Bellaが、家でひとりでAbleton LiveとかFl Studioのようなループベースの音楽ソフトを使って作ったんだと思います(もうひとりのメンバーであるDJ Aero Manyeloは他の音源を聴くと普通のハウスをプレイしていて、たぶん今回のアルバムの音作りにはほとんど関わってないんじゃないかな)

普段はEDMは聴かないですけど、このアルバムは適度に歪んだシンセ音や野太いベース音といったEDM的な音使いがコンゴ音楽とマッチして効果的ですね。
もともとコンゴ音楽ではカリンバにリングを付けてビビリ音(サワリ音)を出したり、それをアンプやエフェクターで増幅したりもしていたようなので、もともとEDMとは相性の良い音楽なのかも。

EDMはパッと音を聴いた時のインパクトが命だと思うのですが、その点でもこのアルバムは良くできてるなーと思います。そのためにテンポ、ミックスバランス、エフェクトなどをガチガチにバランス取っていると思うのですが。
こういうアルバムを聴くと生演奏を録音したアルバムとは全く違うフィーリングが感じられて新鮮です。

Montparnasse Musiqueは次回はコンゴ音楽とは全く違うジャンルでアルバムを作るのかもしれないですけど、期待大ですね。