メアリー・ハルヴォーソン『Amaryllis』

ギタリスト、メアリー・ハルヴォーソンが2022年5月にノンサッチ・レーベルからリリースした2枚のアルバム『Amaryllis』と『Belladonna』について紹介

『Amaryllis』は6人組編成のバンドによるインプロ主体の演奏が収められており、もう1枚の『Belladonna』は現代クラシック音楽のMivos弦楽四重奏団と共演したアルバムになっています。
まったく趣の異なる2枚のアルバムでそれぞれにタイトルが付いているのですが、いちおう2枚組アルバムという位置づけのようです。

ハルヴォーソンはパンデミックでのロックダウン中に弦楽器のための作曲を学んだそうで、『Belladonna』は彼女の新機軸ともいえるアルバムになっています。

そんな中で、注目なのはなんといっても6人組編成の『Amaryllis』ですね。

『Amaryllis』の6人組編成での演奏は動画がほとんどないのですが、ノンサッチレーベルのアカウントがtwitterにアップした動画を紹介

 

『Amaryllis』参加メンバーはこちら
Mary Halvorson: guitar
Adam O’Farrill: trumpet
Jacob Garchik: trombone
Patricia Brennan: vibraphone
Nick Dunston: bass
Tomas Fujiwara: drums
+ The Mivos Quartet

ハルヴォーソンも他のミュージシャンと同様にパンデミックにより音楽活動の路線変更を余儀なくされたひとりで、ピアニストのSylvie Courvoisierとのデュオ作『Searching for the Disappeared Hour』など、最近では小編成かつその場限りのセッション的な活動が多かったのかも。

ハルヴォーソンが自身がリーダーのグループとしてフルアルバムをリリースするのは、Code Girlの『Artlessly Falling』以来で、ずいぶん久しぶりという印象です。

で、注目のグループですが、アルバムリリースとしては初めてですが、それぞれのメンバーは過去に多く共演しており目新しい人選ではないようです。

トランペットのアダム・オファリルはハルヴォーソンのグループCode Girlのメンバーであり、ジェイコブ・ガーチクはメアリー・ハルヴォーソン・オクテットの一員であり、トマ・フジワラはサムスクリュー他ハルヴォーソンのアルバムではファーストコールのドラマーですね。

他にもヴィブラフォン奏者のパトリシア・ブレナンは、「7 Poet Trio」でトマ・フジワラと共演したり、参加メンバーは全員どこかでつながりがあるメンバーという感じ。

この人選を見てみると、ジェイコブ・ガーチクについては以前ブログでも取り上げたり(こちら)、パトリシア・ブレナンの1stソロアルバムについて取り上げたり(こちら)、個人的にすごく「気になる」メンバーが集まったという印象でしたね。

そういう訳でリリース前からかなり楽しみにしていたアルバムなのですが、期待を上回る出来栄えかも。

ドラムとベースが前面に出ることで曲全体をグイグイとドライブさせる演奏は、最近のジャズではあまり聴けない「カッコよさ」にあふれていますね。
オーソドックスと言えばオーソドックス、オールドスタイルと言えばオールドスタイルだとは思うのですけど、このカッコよさの前にはそういった議論は不要です。

ハルヴォーソンは基本的にはインプロ/即興メインの人だとは思うのですけど、自分名義のアルバムだとガラっとコンセプトを変えるのは面白いですね。

それにしてもこのアルバムは、各メンバーのソロも聴きどころたくさん。
特にアダム・オファリルの晴れやかでハデなトランペットは、かなり目立っていましたね。
あとはパトリシア・ブレナンのヴィブラフォンもテクニカルに音数が多くて、かなりこのグループの演奏を特徴づけていると思います。

ハルヴォーソン自身のギターはというとこの大編成の中では控えめで、正直いるのかいないのか良くわからないパートも多かったのですが(ご愛嬌)

6人編成バンドの『Amaryllis』とストリング・カルテットとの共演の『Belladonna』と分かれているのですが、厳密にいうと1枚ごとにくっきりわかれている訳じゃなくて、6人編成のアルバム『Amaryllis』の後半になるとストリング・カルテットも参加してきます。
『Amaryllis』にはトータル6曲収録されていますが、6人編成の曲というと厳密には最初の4曲のみですね。

これってボリューム的に正直物足りなくて、「6人編成でアルバム2枚分レコーディングしてもらっても良かったんだよ」というのが正直な感想です。