2019年ベスト10アルバムの6枚目はノルウェー出身のギタリスト、ラーゲ・ルンド(Lage Lund)の4年ぶりのアルバム『Terrible Animals』です。
ラーゲ・ルンド(Lage Lund)というギタリスト
ラーゲ・ルンドは「2005年のモンクコンペティションで優勝したこと」や「初めてエレクトリックギターでジュリアード音楽院に入学」などといったフレーズで紹介されることが多いです。
同世代の中でも圧倒的なテクニシャンであることは間違ってはいないのですが、いまだにこういうデビュー当時のエピソードが話題になるのは少しかわいそうな気もするのですけどね。
現在進行形の活動も、どことなく地味な印象を持たれているんですかね?
写真はモンク・コンペティションで優勝した時のルンド(右から2番目)
いちばん左は準優勝のマイルス・オカザキ(ここでもちょっと紹介してます)
新作『Terrible Animals』
Lage Lund (g)
Sullivan Fortner (p)
Larry Grenadier (b)
Tyshawn Sorey (ds)
新作アルバム『Terrible Animals』ですが、これまでのアルバムとはメンバーを一新しています。
このメンバーでツアーやライブを頻繁にやるとは考えづらく、このアルバムオンリーのセッションなのだと想像できます。
実際にアルバムを聴いてみると、とにかくTyshawn Soreyがドラムを叩きまくっていて「Soreyのソロアルバム?」と思うほどです。
すべてLund自身による曲は短くシンプルで、音数やテクニックより雰囲気で聴かせるタイプの曲のようで他のメンバーも割と抑えた演奏に徹しているのですが、Soreyのみひたすら手数多くドラム音で曲を埋め尽くしています。
実はこういうタイプのドラミングは好きではあるので、Soreyのドラミングがアルバムの価値をグッっと上げているとは思います。
エフェクターという新機軸
ルンドはこのアルバムではギターエフェクトを多用するという新しいチャレンジをしているようで、ビル・フリゼールとかベン・モンダーみたいなディレイ系の音が多く使われています。
ただそういう空間系のギター音もメインテーマやソロに使うのではなく、オーバーダブでシンセのバッキングっぽくを乗せる、かなり控えめな使い方ですけどね。
途中、曲名にハイチやブラジルといったキーワードが出てくることからもわかるように、ラテン・フュージョンっぽい雰囲気になる箇所も多いのですが、なんとなくパット・メセニー・グループを連想させます。
ライル・メイズのシンセを、ルンドのエフェクトをかけたギターで代用している感じ。
テクニカルでエネルギッシュなソロは控えめにしているところもあるように思いますが、随所に聴けるひねりのあるフレーズはさすがに斬新だなと。
おまけ:サリヴァン・フォートナー
ピアノとベースはこのアルバムではあまり目立っていない感じですが、サリヴァン・フォートナーというピアニストは最近ではCÉCILE McLORIN SALVANTのアルバムでも起用されているそうです。
もともとはロイ・ハーグローブのグループにずっと在籍していた人で、2019年のダウンビート誌の批評家投票では期待の若手プレイヤーの筆頭としてピックアップされていました。
トラディショナルなジャズフィールを表現できるピアニストとして注目度があがってきているようで、先取りして彼を起用するルンドの目利きもさすがですね。