クリス・デイビスDiatom Ribbons 『Live At The Village Vanguard』

カナダ出身のピアニスト、クリス・デイビスのグループであるDiatom Ribbonsによる新作はヴィレッジ・バンガードでのライブ盤『Live At The Village Vanguard』

これは良いアルバム!

クリス・デイビスは2019年に『Diatom Ribbons』(2019)というタイトルをリリースしていて、そのアルバムについてはこのブログでも取り上げていました。

Diatom Ribbonsという名前は当初はアルバムタイトルだったのですけどね。現時点ではグループ名となっているようですね。

『Live At The Village Vanguard』のメンバーはこちら
Kris Davis – piano, prepared piano, arturia microfreak synthesizer
Terri Lyne Carrington – drums
Val Jeanty – turntables and electronics
Julian Lage – electric guitar
Trevor Dunn – electric bass and double bass

Diatom Ribbonsの主要メンバーは、クリス・デイビス、テリ・リン・キャリントン、ヴァル・ジェンティという女性3人のようです。

3人はそれぞれ、バークリー音楽院でキャリントンが創設したInstitute of Jazz and Gender Justiceという部門に所属しているようで、おそらく2019年にデイビスがこの部門に加わったことがきっかけにできたグループのようですね。

ジェンダー・ジャスティスってどんなこと教えているのかわかりませんが、学問というより女性ミュージシャンの地位向上や権利のための活動母体という意味合いが強いのだと思いますね。リンダ・メイ・ハン・オーも所属しているみたいです。

そんなDiatom Ribbonsのアルバムの先行カット曲がジェリ・アレンの曲「The Dancer」だったというのもうなずけます。

ちなみにヴィレッジ・ヴァンガードでライブ録音を行った女性ミュージシャンはかなりレアだそうで(おそらく10人もいないそう)、ジェリ・アレンもその数少ない一人ですね。あと大西順子さんなどもその数少ないうちの一人だそう。

Diatom Ribbonsは、コロナのロックダウンが開けた2022年ごろからライブも頻繁に行っているようですが、3人以外のメンバーは流動的のようです。
トレヴァー・ダンは以前の動画でも参加しているのを見ましたが、ジュリアン・ラージはおそらくこのライブのために初めて参加したようですね。(そういえばキャリントンの『New Standards, Vol. 1』にもラージは参加していましたね。あとメイ・ハン・オーも)

アルバムを聴いた印象ですが、2019年のアルバムに比べるとサックスがいなくなったことで、全く別のグループと言って良いくらいかなり印象が違ってきています。

その反面、Val Jeantyのターンテーブルの比重がかなり高くなっていて、サンプリング/コラージュっぽい展開も多く、いわゆる従来のジャズとは全く違う感じ。

クリス・デイビスのインタビューなどによると、Diatom Ribbonsは、ジャズミュージシャンだけでなくメシアンやシュトックハウゼン、ナンカロウと言った現代音楽の作家に影響受けているんだとか。

そういう従来の型を積極的に壊しにかかっている部分と、ジャズロック的な記名性が高いとでもいうのか「押し」の強い部分が相まって、不思議な感覚をおぼえる演奏です。

このアルバムは2枚組で、2枚目冒頭ではキャリントンとルドレシュ・マハンサッパがチャーリー・パーカー生誕100年記念のイベント用に作った曲「Bird Suite」が収録されています(イベント自体はコロナでキャンセルになったそうですが)

過去のビバップを現代的に再解釈したとなっていて、このあたりはヴィレッジ・ヴァンガードのお客さんも安心して聴けたんじゃないかな。

この「Bird Suite」に続く曲も、その流れで過去のビバップと現代ジャズを行き来するような曲が続きますね。

アルバム2枚に渡っていろんなジャンルが交錯するかなり間口の広い演奏だと思うのですが、刻々と変わるスタイルにピッタリとハマる感じで合わせるトレヴァー・ダンとジュリアン・ラージはさすがです。

クリス・デイビスは思ったより弾かない場面も多くて、プレイヤーというよりも、全体のディレクション担当という感じなのかもしれません。