ピアニストのケヴィン・ヘイズと、ドラマーのビル・ステュワートのデュオアルバム『American Ballad』
共演しているケヴィン・ヘイズとビル・ステュワートは同世代で、90年代からかなり長くいっしょに活動を続けてきたふたりです。
ふたりは普段はピアノトリオで共演することが多く、ベースはDoug Weiss、Scott Collyといったプレイヤーが担当することが多いみたいですね。
ケヴィン・ヘイズというピアニストは正直あまり印象に残っていないのですが、ビル・ステュワートのドラムは大好きなんですよね。
メイシオ・パーカーのグループ、ジョン・スコフィールドとジョー・ロヴァーノのカルテット、パット・メセニーのトリオ、マイケル・ブレッカーのソロアルバム、それぞれのグループで彼のドラムは良い意味で目立っていたと思います。
それぞれのアーティストのキャリアのピークとも言えるアルバムに参加しているとも言えると思いますね。
特にパット・メセニー、ラリー・グレナディアとの『Trio 99 → 00』『Trio→Live』でのドラムは、ジャズ・マナーのドラムに限って言えば、自分の理想の、もっとも聴きたいタイプのドラムだったんですよね。
Ain’t No Funk In Iowa
ビル・ステュワートと言えば、彼がまだデビューしたての頃のジェイムズ・ブラウンとのエピソードが最高なんでちょっと紹介。
ステュワートは1990年代にメイシオ・パーカーのグループに参加していたのですが、パーカーに連れられて、1991年にジェイムズ・ブラウンが刑務所から出所した後のHBOのスペシャル番組に出演した時の話。
演奏リハーサルの時、ステージの端でドラムのスツールに座っていたのですが、その時にJBが私に声をかけてきたんです。
JBはわたしに 「おい、ドラマー、おまえどこの出身なんだ?」 と尋ねてきたんです。
私は「アイオワです」と答えました。
それを聞いたJBは
「アイオワ ? アイオワにはファンクはないぞ!」
と言ったんですよ。
デュオ・アルバムであること
えー、肝心の『American Ballad』についてですが、そもそもこのアルバムは新録ではなく、もともとは2015年に1日のみでレコーディングされた音源を録音から7年経ってリリースしたものです。
それにしてもどうして長い塩漬け期間のあとにリリースされたんでしょうね。web記事などからは分からなかったのですが。
近年はパンデミックの影響で、デュオやソロなど、少人数編成のアルバムが増えていますね。たとえばSylvie Courvoisier/Mary Halvorson 『Searching for the Disappeared Hour』(2021)とか。
そういった環境があるので、「今ならリリースしても別に不自然じゃないかな」と思ったのかもしれません。
ジャズだけに限らず、ロック、ポップス、R&Bは「ベース」と「ドラム」の音が鳴っていることが普通だし、デュオみたいな編成でドラムかベースのいない演奏は「イレギュラー」と見られがちなのですけどね。
たとえば今回の『American Ballad』みたいにベースがいなかったりすると、低音が出ていないことから「何かが欠落している音楽」という印象を受けてしまうんでしょうかね?
でも『American Ballad』を聴いても、「何か不足している」ような感覚はないのですけどね。
わたしはインド音楽も良く聴くのですが、インド音楽はメロディ楽器とパーカッション(タブラ)のデュオがほとんどで、それが普通だと思っているからかもしれませんが。
この『American Ballad』はほぼ全曲が即興で演奏されたようですが、アヴァンギャルドな感覚もなく、ケヴィン・ヘイズの非常に美しいメロディックなフレーズと、ビル・ステュワートの引き出しの多いジャズドラムが印象的です。
演奏は5~10分の長さがあるのですが、ひとまとまりの曲というよりも、いくつものフレーズの断片をつなぎ合わせていくような演奏となっています。
曲の中に休止パートっぽい部分があったり、新鮮です。
(たまたまかもしれませんが)このあたりも「インド音楽」っぽいかもしれません。