カマシ・ワシントン(とブランフォード)を聴いてみた

先日に来日したカマシ・ワシントンについて、SNSでも絶賛のライブレポートを投稿されている人がたくさんです。
彼については名前は知っていたのですが、実はあまりちゃんと聴いていないので、今回あらためて聴いてみました。

カマシ・ワシントンを【聴いてみよう】と思ったのは来日のニュースからではなくて、実はSNSでフォローしている方のツイートで面白い記事を見つけたからです。

少し前ですが、ジャズタイムス紙に載ったブランフォード・マルサリスのインタビューについて書かれています。
インタビューについて長いですが引用します。

記者
「あなたの90年代にバックショット・ルフォンクでリリースした(ジャズ、ポップ、DJカルチャー)をミックスしたアルバムは、賛否両論でした。今のロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンのようなジャズとヒップホップを横断する演奏をするアーティストをどう思いますか?」

ブランフォード
「ロバート・グラスパーは限られたジャズ・ボキャブラリーしか持っていませんね。彼の言葉が本物じゃないという訳ではないです。それがグラスパーの1番の関心事だと思いますし。カマシもジャズプレイヤーじゃないですね。彼はサックスプレイヤーです。彼のボキャブラリーはジャズじゃない。ジャズみたいな別の何かです」

「何も論争しようという訳じゃないですよ。でも私はレスター・ヤング、デクスター・ゴードン、ウェイン・ショーターのアルバムを聴く事ができるんです。その上で「カマシのプレイに過去のプレイヤーからの繋がりを聴きとる事ができますか?」と問われるとどうでしょう。もしそれができないなら、どうしてカマシのプレイをジャズと言えるのか。カマシが成し遂げた成功は素晴らしいものです。しかし「彼はジャズ・プレイヤーだ」と擁護する人々は、ジャズ・プレイヤーではない人たちなんです。もちろんカマシやグラスパーは「ジャズとはどういうものか」について自分自身の考えを持っているし、その資格があります。でも、私にだってその資格はありますよ」

引用:https://jazztimes.com/

なかなか面白い話ですね。

これっておじさんが若者にいう「最近の若い奴は、、」みたいなレベルになりそうな話ですよね。
それにそもそもブランフォードだってBuckshot Lefonqueやスティング・グループへの参加みたいな活動をしていて、どちらかと言うと「あいつらマジメにジャズを演らんとつまらんことを、、」と上の世代から言われていたタイプだと思っていたので

ただ、個人的にはロバート・グラスパーを以前聴いてみた時に「なんかちょっと違うな」と思っていたこともあって、この記事のブランフォードの言い分はなんとなくわかるような気もしています。

つまりブランフォードが言いたいのはこういう事(想像)

過去のジャズの伝統

ジャズミュージシャンが過去のジャズの巨人たちと同じような演奏を続けるのはダサいとブランフォードも思ってるはずです。
ただ、新しいスタイルで演奏するにしても「過去のミュージシャンのスタイルを習得してからでしょ」と言いたいのかも。
つまり「4ビートもマトモに演奏できないやつの音楽が新しいこと演ったって、そんんなのジャズって呼べるか?」と言いたいんでしょう

アドリブ・インプロのクオリティ

おそらくブランフォードが思ってるのは、ホーン奏者の優劣は突き詰めればアドリブの出来で、「カマシのソロがありきたりでつまらない」とシンプルに思っていそう。

あとカマシのライブとかも、割ときっちり準備されてそうですよね。
あらかじめ用意しておいたフレーズを念入りにアレンジされた伴奏で吹くみたいなのはジャズじゃない、と言いたいのかも。
初めていっしょに演奏するメンバーでも、その場で「Eのブルースだ」とだけと言えばそれだけで素晴らしい演奏をクリエイトするのがジャズ・ミュージシャンだ、みたいな。

カマシはこういうの吹けるの?

スティングバンド、ヒップ・ホップ

ブランフォードもジャズ外の仕事が多かった訳ですけど、Buckshot Lefonqueやスティングバンドの演奏をジャズだと言う人はいないだろうし、流石に本人もそのつもりは無かったんだろうと思います。
「ジャズでもジャズじゃなくても、演りたいと思った音楽を演る」とシンプルに考えていたのだと思いますね。

Sting 『Englishman In New York』
音楽を聴きはじめたころ、Stingは良く聴いたアイドル的存在なのでいま聴いても良いですねー。
改めて動画を見ると結構たくさんブランフォードは演奏する姿が映っていますね。

Buckshot Lefonque 『Music Evolution』(1997)
Buckshot Lefonqueは改めて聴くと、あまりヒップホップな感じはしないですね。ドラムがプログラムされているくらいで、あとは割と普通の演奏な気がします。
賛否両論だったと言うことですけど、古くなってもいなくなかなかカッコ良いと思いますけどね。

Guru 『Jazzmatazz Volume1』(1993)

ジャズとヒップホップと言えばこのアルバムも良く名前が出てきます。
昔聴いて「ダサくない?」と思っていたのですけど、このアルバム、ブランフォードも参加しているじゃないですか!(何やってるんですか!)
改めて聴き返しても。ダサいと言うかヌルいと言うか緊張感が感じられない感じ

カマシ・ワシントン聴いてみた

「The Epic」
最後ですけど、カマシ・ワシントンの『The Epic』を聴いてみました。
ストリングスやコーラスも入って良く言われるように70年代のスピリチュアル・ジャズ風。

洗練されていて聴きようによってはオシャレかもしれないですね。
ジャズというより映画のサントラを聴いているような雰囲気です。

ただ聴いていてブランフォードが言う批判もうなずけるのも事実。ハッとするようなソロ・フレーズが出てくるとかそういう類のアルバムではないですね。

カマシ・ワシントンやロバート・グラスパーについて、雑誌などでも「古くからのジャズファンは気に入らないかもしれないが」みたいな書き方をされることも多いです。
そういうのを読むと「気に入らない側」のわたしとしては「別に新しくなくても良いでしょ」と反発しちゃうのですけど、
ただこうやっていろいろ考えながら聴いたことないCDを聴くのは楽しいのですね。まだまだ続けたいです。