アメリカーナ・ジャズを牽引するジュリアン・ラージの新作『Squint』

ギタリストのジュリアン・ラージが自身のレギュラートリオを率いてリリースするブルーノート移籍後の第一弾アルバム『Squint』

ジュリアン・ラージはすでにトップクラスに知名度のあるジャズ・ギタリストだと思いますので、細かなインフォなどは無しで、アルバムを聴いた感想を書きますね。

ラージはジャズ、カントリー、ブルーグラス、ブルースなど多ジャンルにわたってプレイするギタリストですけど、わりと「これはジャズ」「これはカントリー」と、演奏ごと明確にジャンルを決めるタイプなのかなと思いますね。

前作の『Love Hurts』(2019)はかなりジャズ寄りのアルバムだったので、その揺り戻しのように今回の『Squint』はカントリー/ブルース色が強いアルバムになっています。
録音もナッシュビルで行われたということですし。

今回のアルバムリリースに合わせた販売元オフィシャルのキャッチコピーなのだと思いますが、ラージのことを「アメリカーナ・ジャズを牽引する人気ギタリスト」という風に紹介しているみたいですね。
「アメリカーナ・ジャズ」という単語は聞いことなかったので、はじめは「なにそれ?」って思ったのですが、たしかにラージの音楽をそう表現したくなる気持ちはわかるかも。

ただ、もしこのアルバムをジュリアン・ラージのアルバムという情報無しに聴いたとして「どんなジャンルと思うか?」と訊かれたら、ほとんどの人は「アメリカーナ」と答えるんじゃないかな。
このアルバムにいわゆるジャズ的な要素を感じる人はほとんどいないと思いますよ。

さらに言えば、情報無しに「これ、誰のアルバムだと思いますか?」と訊かれたら、自分だったら「ビル・フリゼール?」と答えますね。
ソリッドギターによる硬質な音色もフリゼールを思いおこさせますし、特にフリゼールがトマス・モーガン、ルディ・ロイストンとのトリオで2020年にリリースした『Valentine』に近いテイストかも。

ラージがこの『Squint』をレコーディングする際は、当然フリゼールのことは意識したでしょう。
ラージとビル・フリゼールとは(ギャン・ライリーを加えたトリオで)ずっと共演していますし、同じブルーノートレーベルだし。

このアルバムを聴いてこういうことを思う訳なのですけど、こういったカントリーっぽいアルバムが好きかと言われれば、正直言ってそこまで好きじゃないかな。

ただアメリカの音楽リスナーにとってはこういうカントリー/アメリカーナ音楽の人気は、日本で考えるよりずっと高いはず。
「ロックとかジャズみたいなダサい音楽は聴かないよ。聴くのはカントリーだけ」という人も普通にいるんでしょう。
フリゼールだってラージだって、こういう音楽が好きだから演奏している訳だし。

という訳で特にまとめらしいまとめもないですが、『Squint』を聴いた感想でした

『Squint』 Personnel
Julian Lage (guitar)
Jorge Roeder (bass)
Dave King(drums)

余談①

ブルーノートレーベルは、オーセンティックなジャズアルバムをリリースする事にもはやあまり興味ないのかもしれませんね。最近リリースされたジェイムズ・フランシーズなどを聴いてもそう感じましたけど。

これってやっぱりストリーミング時代のマーケティングという事なんでしょう。
ブルーノートはジャズアルバムの膨大なライブラリを持っていて、ストリーミングの再生回数では過去の音源が大きなウェイトを占めていますからね。
過去の音源も新譜も分け隔てなく聴かれる状況では、昔ながらのジャズアルバムをリリースしても聴いてもらえないという判断なんでしょう、きっと。

余談②

ジュリアン・ラージといえば、このアルバムのジュリアン・ラージとホルヘ・ローダーも起用されている、ジョン・ゾーンのNew Masada Quartetが楽しみですね。
レコーディングが予定されているのかどうかも不明なのですけど。

マサダのオリジナルカルテットはオーネット・コールマンのカルテットを模していて、2管フロントのふたりが「双子のように」吹くということがコンセプト。それに対して新しいマサダはトランペット奏者の代わりにラージのギターが起用されていて、ラージがどんな演奏をするんだろうと今からワクワクしますね。