ジョン・ゾーン作曲によるピアノ・トリオ作『Suite For Piano』
このアルバムはオフィシャルの紹介文によると、バッハのゴルトベルク変奏曲とシェーンベルクのピアノ独奏曲からインスピレーションを受け、最も古い伝統的なクラシック音楽の形式をゾーンが非常に個人的に解釈したアルバムとのこと。
このアルバムはかなり良いですね。大好き。
少なくとも、「ここ最近のゾーン作曲のピアノ・トリオ作品」に限るなら、間違いなく最良のアルバムだと思います。
トリオメンバーは
ブライアン・マルセラ(p)
ホルヘ・ローダー(b)
チェス・スミス(ds)
ゾーンが自身のクラシック曲を馴染みのあるメンバーに演奏させる、というのはTzadikの定番ですね。
昔は少なかったと思いますが、最近ではTzadikピアノ・トリオ編成も良く見かけます。
たとえば最近では、ブライアン・マルセラ、トレヴァー・ダン、ケニー・ウォルセンのトリオによる『The Hierophant』(2019)、『Meditations On The Tarot』(2021)といった作品もありました。
なのでこの『Suite For Piano』のインフォメーションを聞いて、
「あー、はいはい、ああいう感じのアルバムね」
と、ある程度アルバムの雰囲気の予想が付く人は多いかもしれません。
ですが『Suite For Piano』を聴くと多分その予想は裏切られると思います。(自分もそうでした)
もしブラインドテストでこのアルバムを聴いたら、最近リリースされたいわゆる現代ジャズのピアノトリオだと思うんじゃないでしょうか。
ですが良く聴いてみると、3人の演奏が複雑に絡み合うな曲だったり、スウィング感のあるベースなどいかにも「ジャズ」っぽいテイストを挟み込んだり、バラードっぽかったりかなりイレギュラーな構成をしていると思います。
3~5分という短い曲の中でスタイルが移り変わっていく、情報量の多い演奏ですね。
このスピード感は、ゾーンがかつてやっていたカットアップ的な手法を、もう少しさりげなくピアノトリオで表現した感じかもしれない。
ゾーンのアルバムは基本は全て譜面でアドリブは無いはずですけど、アドリブを入れているみたいに聴こえるパートも多いです。
このアルバムの聴きどころはゾーンの書いた難曲をハイテクニックで弾き切るマルセラなのかもしれませんが、曲のカラーを決めるポイントで良い感じに顔を出すホルヘ・ローダーも、(少し叩きすぎな気はするのですが)「反射神経の良い」ドラムを叩くチェス・スミスも、3人とも息のあった演奏をしていると思います。