2022年、ジョン・ゾーン主宰のTzadikレーベルからリリースされた新作『Incerto』
同じく2022年にリリースされたピアノトリオ作『Suite for piano』は出色のできばえだったと思いますが、今回の『Incerto』は、この時のメンバーにギターのジュリアン・ラージを加えたカルテットとなってレコーディングされています。
メンバーは
Brian Marsella (piano)
Jorge Roeder (bass)
Ches Smith (drums)
Julian Lage (guitar)
いま現在のTzadikはかつてとは違い、少人数のコアメンバーを、編成を微妙に変えることによって作られたいくつかのユニットで、リリースのかなりの部分をカバーしているようです。
今回のジュリアン・ラージが追加で参加も、そういう動きの一環なのかも。
ちなみにいまのTzadikのコアメンバーとは、今回のカルテット4人に加え、
John Medeski (organ/keys)、Matt Hollenberg (guitar)、Trevor Dunn (bass)、Kenny Grohowski (drums)、Kenny Wollesen (drums)
といったメンバーなのだと思います
個人的にはいまのこの体制は歓迎という感じですね。
John Zorn plays Modern Jazz
この『Incerto』はオフィシャルの説明分にあるように「モダン・ジャズ」、もしくは「モダン・チェンバー・ジャズ」と言える作風です。
ローダーのウッド・ベースと、ラージのクリーン・トーンのギターがアコースティックなモダン・ジャズのアコースティックな響きを演出しています。
モダン・ジャズのダンサブルな面を強調しながら、複雑なアンサンブル・ハーモニーのパートもあれば、スローでただただ美しい旋律を奏でるパートなど、さまざまな側面を聴くことができます。
マサダやバガテルなどの縛りがない分、1曲ごとに独立したバラエティのある曲をコンパイルしたようです。
このあたりのつくりは、『Suite for Piano』の路線を継承しているとも言えますが、「コブラ」に代表されるゲームピース風の突然の方向転換や、ソニー・クラーク・メモリアル・カルテットや『New for Lulu』のような”フェイク・ジャズ”っぽいパートなど、過去のゾーンの音楽を再解釈するような演奏も多く聴けます。
特にジュリアン・ラージは、自身のソロ作では(なぜか)ビル・フリゼール風のアメリカーナっぽい演奏が多いので、アグレッシブに弾くのを聴きたい場合はこの『Incerto』が一番じゃないでしょうか。
他のプレイヤーの演奏も素晴らしくて、ブライアン・マルセラのスムースで饒舌なピアノは「さすが」という感じだし、チェス・スミスは(このブログで名前を出す時は褒めてばっかりな気はしますが)モダンジャズっぽいドラムではないですが、ドラム音の抜けの良さとドライブ感がひたすら気持ち良いです。
今回のようなアルバムをレコーディングする場合、今回のメンバーが(先に挙げた)Tzadikのコアメンバーの中で、最適解な気はしますね。
Tzadikコアメンバーのさまざまな組み合わせの中で、おそらくゾーンが気に入れば(Chaos Magickのように)正式グループのかたちにランクアップされると思うので、この『Incerto』のカルテットもぜひそうなってほしいものです。