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#MeTooにケンカを売ったロバート・グラスパー(とイーサン・アイバーソン)

先日よりSNSで「女は音楽ライター・評論家にはなれない」というブログ投稿(→こちら)について、いろんな方がコメントを寄せていてました。

この記事で語られているのは議論の余地のない実際の数字・データであり、特に異論はないのですが、これを読んで思い出したのは、去年の年末に読んだNYタイムスの記事のこと

2010年代のジャズで起こった印象的な出来事を記事にしていて、その中で「2017年 #MeTooがジャズ界を揺るがす」という内容で、ロバート・グラスパーのインタビューについて触れられていました。

2017年の話題なのですが、当時はまったく聞かなかった話題なので、今回改めて調べてみました。

Interview with Robert Glasper

もともとの発端は2017年3月のこと。
Bad Plusのピアニスト(兼ブロガーの)イーサン・アイバーソンがロバート・グラスパーにインタビューしたのですが、その中での発言が論争となったみたいです。

この記事の中で、グラスパーはジャズの女性リスナーについてこのように語っています

RG: 私はグルーヴを演奏するのが大好きです。デリック・ホッジ、クリス・デイブ、そして私。私たちはリハーサル、サウンドチェック、または私の家で何時間グルーヴし続けていましたよ。それだけで十分です。ソロは必要はありません。グルーヴしながら演奏するだけで本当に楽しいんです。

RG: 私はグルーヴが観客にどう受け止められるを見てきました。観客にグルーヴを感じさせるのが好きです。女性について言うと、女性はグルーヴが好きです。彼女たちは長いソロは好きじゃない。グルーヴをヒットさせることは、まるで音楽のクリトリスのようです。グルーヴに満たされると、彼女たちは目は閉じて、体を揺らしてトランス状態になります。

うわぁ、、
この発言は(Z世代と言われるような)若い世代の鋭い反応を呼び起こしました。
もしこのインタビューが、2017年の後半に起こるハーヴェイ・ワインスタインのハリウッド・スキャンダルの後に発表されていたら、もっと激しい批判を浴びたかもしれませんね。

批判の矛先は、グラスパーのみならずブログを寄稿したアイバーソンにも向けられたようです。
「こんな発言をそのまま載せると言うことは、これが問題のある発言だと思っていないんじゃないのか?」というわけです。

著名な人間が世間からバッシングを受ける時、その人が起こしてしまった行動よりも、それを指摘された後の振る舞いが非難されることは良くある話です。
素直に謝罪すれば良いところを、開き直ったり言い訳に終始したりする態度が火に油を注いでしまう。

アイバーソンの場合は後者で、彼は素直に謝罪することはなく、自身のブログで良くわからない弁明をはじめました。

EI:「私はリベラルでフェミニストです。今回のことは、同じリベラルやフェミニスト内で他の人の弱点を探して攻撃しているケースです。これがトランプが勝った理由です」

こういう弁明は当然さらなる批判を浴びることとなり、ヴィジェイ・アイヤーはFacebookに
「自分のブログで行った42回のインタビューが全て男性ミュージシャンだった男が、自分のことをリベラルでフェミニストって呼んでる」
と批判しています。

グラスパー自身は、当初
「おまえらジャズ・ポリスはそんなつまらないことで大騒ぎして、、オレは自分の音楽を演奏するだけだよ」
という感じで取り合っていなかったのですが、騒ぎが大きくなると自身のFacebookにコメントを発表しました(こちら

RG: …私が言いたかったことは、ジャズは何か本質的な事とのコネクションを失ってしまったように感じる。グルーヴ、ダンス、ソウル。そう、それらはセックスと結びついているんだ。セックスについて言及することは悪いことじゃないよ。リアルで、自然なことだから。

RG: …女性は自分にとって先生でありコラボレーターだよ。私はミュージシャンである母から音楽を教わったのだし。

RG: …年間に何百本とインタビューを受けると間違ったことも言ってしまう場合もある。謝るよ。私はもっと女性がジャズの世界で活躍して欲しいんだ。

などなど
焦点をぼかしているようで、ところどころで謝罪もいれて、言い訳もいれつつ、けっこう考えられたコメントかも。

ちなみにこのコメントの下に続くリプライ欄を読むと、彼を擁護する女性ミュージシャンも何人かいるようですね。
Rachel ZやIngrid Jensenなど(Ingrid Jensenの擁護コメントはちょっとガッカリではありますが)

最後に

NYタイムズの記事では、#WeHaveVoice collective など、ジャズの世界にはびこるセクシズムに対する女性ミュージシャンのアクションが紹介されていましたが、そういう活動はまだ不十分ではあっても身を結びつつあることは感じられました。
そういった彼女たちの活動が可視化されたという意味でも、グラスパーのインタビューはエポックメイキングでしたね。