フン・タン(Huong Thanh)『ドラゴンフライ』レビュー

フン・タン(Huong Thanh)はベトナム・サイゴン生まれのヴォーカリストです。(おそらく1960年?生まれ)

彼女は2001年リリースのアルバム『ドラゴンフライ』で、特に日本のジャズ雑誌などで良くとりあげられていたようです。
このアルバムは、なんといってもベースにリチャード・ボナが参加していることが話題になったみたいですね

Huong Thanh『ドラゴンフライ』(2001年)

Personnel
Huong Thanh  (vocal)
Nguyen Le  (guitar,synths)
Etienne Mbappe  (bass)
Richard Bona  (bass)
Paolo Fresu  (trumpet)

他にもジョン・マクラフリンの『フォース・ディメンション』メンバーで、元ザヴィヌル・シンジケートのエティエンヌ・ムバペも参加していますね。
フン・タンと長くコラボレーションしているギタリストのグウェン・レも、テクニカル系フュージョンギタリストとしても注目されているよう。

ジャズミュージシャンがバックで演奏していますけど特にジャズっぽい演奏ではなくて、民族音楽テイストのポップスという雰囲気です。

カイ・ルオンとは

フン・タンの父親であるHuu Phuocは、ベトナムの伝統音楽であるカイ・ルオンの最も有名なシンガーだったようで、す。
彼女は10才になった頃から父親にカイ・ルオンの歌唱法を学び、16才の頃には舞台に経つまでになったそうです。

カイ・ルオンとは、ベトナムの民謡と伝統音楽、それに中国由来の京劇をベースに、それらを現代風にミックスして発展してきた音楽ジャンルです。
ハイトーンのヴォーカルに節回しを付けるところなど、聴いた印象は確かに京劇に近い印象を受けますね。

ただこのカイ・ルオンというジャンルは第二次世界大戦の前くらいに流行したジャンルで、ベトナムでは「年配の人が聴く音楽」と思われているようです。
はっきり言って、すでに本国ベトナムでは若い人にはあまり人気はないようです。日本の演歌みたいな扱いなんですかね。

フランスへ移住

グローバル化する現代以前にも、ヨーロッパ各国には小規模ながらベトナム人コミュニティがかなりあったようです。
著名な音楽家であったフン・タンの父親は、他のカイ・ルオンミュージシャンと一緒にヨーロッパに演奏旅行をしていたようです。フン・タン自身も10代の頃から歌手として彼らに同行していたとのこと

若いころから海外文化に触れていたフン・タンは、成人した後にヨーロッパ有数のベトナム人コミュニティのあるフランスに移住し、歌手としての活動をスタートすることになります。
長い期間無名のローカルミュージシャンだったフンタンですが、1995年に同じくベトナム系ギタリスト、グウェン・レ(Nguyen Le)と出会ったことが転機となります。
彼とのコラボレーションにより、ジャズ/ワールドミュージックテイストのアルバムを発表するようになったようです

この2人のコラボ作品が注目を浴び、ワールドミュージックチャートなどにも顔を出す人気ミュージシャンになっていったようです
『Dragonfly』も、この時にレコーディングされた2人のコラボの典型的なアルバムですね。

ベトナムへの伝統回帰アルバム

フン・タンは日本の和楽器と共演してアルバムをレコーディングするなどボーダーレスなアルバムが多いのですが、そんな彼女がカイ・ルオンの伝統的なスタイルに回帰して作られたアルバムが『Cai Luong Music』(2008)です。

Huong Thanh 『Cai Luong Music』(2008)


バックの演奏もシンプルで素朴な雰囲気ですが、メランコリックなメロディーが特徴的な、こちらもすごく良いアルバムですね