今回は1980代からクレズマーミュージックの第一線で活動しているトランぺッター、フランク・ロンドン(Frank London)を紹介
フランク・ロンドンは、1980年代に起こったクレズマーリバイバルの代表的なグループであるクレズマティックス(Klezmatics)の中心メンバーだったプレイヤーです。
このムーブメントによって、当時アメリカ(特にニューヨーク)ではすでに時代遅れになっていたクレズマーというジャンルに、哀愁を帯びたメロディーとドライブ感あふれるノリをミックスさせたサウンドで再び光をあてあざやかに甦らせたという点で歴史的にも重要な出来事だったのだと思いますね。
ロンドンが在籍したクレズマティックスは、ロンドンの他にデビッド・クレイカウアー/David Krakauer(clarinet)やマット・ダリオウ/Matt Darriau(Sax)などNYアヴァンギャルドシーンで活躍したプレイヤーを輩出しているので、ジャズファンも名前は聴いたことのある人は多いと思います。
他にも80年代のクレズマーシーンを語るうえで欠かせないグループといえばBrave Old Worldのようなグループもいますけど、彼らなどはあまりジャズ界隈とは接点が無くむしろワールドミュージックの文脈で語られることも多いかも。
このクレズマーリバイバルが、90年代にJohn ZornがスタートさせたMasadaやTzadikレーベルのRadical Jewish Cultureシリーズなどをはじめるきっかけとなっていたり、その影響力も大きなものだったのでしょうね。
クレズマティックスはジャズじゃない
クレズマティックスでいちばん有名なアルバムといえば2ndアルバム『Rhythm & Jews』ですね。
『Rhythm & Jews』(1991)
Lorin Sklamberg(Accordion, Keyboards, Lead Vocals)
Paul Morrissett(Bass, Vocals)
David Krakauer(Clarinet, Bass Clarinet)
David Licht(Drums)
Frank London(Trumpet, Cornet, Keyboards, Vocals)
Alicia Svigals(Violin, Vocals)
ちょうどクラリネットにデビッド・クレイカウアーが参加し、初期のメンバーが固定されたタイミングのアルバムです。ジャズ的なインプロは皆無なのですけど、各メンバーのキレの良いソロが聴きどころでした。
クレズマティックスは最近のアルバムになるほどロリン・スクランバーグ(Lorin Sklamberg)のヴォーカルの比重が高くなり、彼の歌を聴くというコンセプトのグループになっていった気がします。
そういったグループの変遷にともない、3rdアルバム『Jews with horns』を最後にデビッド・クレイカウアーは脱退しています。
フランク・ロンドンもずっとグループには在籍していますけど、徐々にロンドンの目立つ場面は少なくなっているようですね。こちらのTiny Desk Consertに出演した時も、ロンドンは参加すらしていませんね。
ソロ活動
ロンドン自身はクレズマティックス以外のソロ活動も活発に行っています。いくつものグループを並行で活動していて、かなりワーカホリックな人のようです。
Tzadikレーベルに初期にはソロやサイドメンとしての参加など、かなりTzadikレーベル関連のレコーディングも多く、レーベルを代表するミュージシャンだったと言って良いと思います。
『Hazonos』(2005)
David Chevan(bass)
Thomas Ulrich(cello)
Gerald Cleaver(drums)
Dan Rosengard(keyboards)
Anthony Coleman(Piano, Organ, Harmonium)
Frank London(Harmonium)
Cookie Segelstein(Violin)
Daniel Mendelson,Jacob Ben-Zion Mendelson,Simon Spiro(Voice [Cantor])
Tzadik盤。
ヘブライ語の朗誦をジャズグループの管楽器のようにフロントに据え、ハーモニウムやヴァイオリン、チェロといった楽器で厚みを増し荘厳な雰囲気を演出するというコンセプト。
こういう朗々と響くカントールの声はユダヤ音楽の大きな魅力であり、ロリン・スクランバーグのすっとぼけたヴォーカルでは出せない味ですね。
『Scientists at work』(2002)
Thomas Chapin(Alto Saxophone, Baritone Saxophone, Bass Flute)
Pablo Aslan(Bass)
Rufus Cappadocia(Cello)
Matt Darriau(Clarinet, Bass Clarinet, Ney, Shenai)
Danny Sadownick(Congas)
Paul Parkins(Drums)
Newman Baker(Drums)
Danny Blume, David Fiuczynski(Guitar)
Jamie Saft(Keyboards)
Cyro Baptista(Percussion)
Hearn Gadbois(Percussion)
David Licht(Surdo)
Mark Feldman (Violin)
ロンドンは純粋なクレズマー音楽の他に、映画や舞台の音楽なども手掛けているようですね。「Sex and the City」の劇中音楽を担当したこともあるとか。
グループ活動と違って彼のソロアルバムはどちらかというとサントラ的。ジャズ的な「楽器奏者の卓越した演奏技術を聴かせる」といったことにはあまり興味は無いようですね。楽器の役割も「悲しみ」や「苦悩」と言った感情の表現のためのように感じられます。
豪華メンバーをそろえていますが、各メンバーの演奏パートも少なくかなり限定的な感じ。そんな中、トマス・チェイピンはかなり自由に吹かせてもらっています。
Hasidic New Wave
『Complete Recordings』(2012)
Fima Ephron(Bass)
Aaron Alexander(Drums)
David Fiuczynski(Guitar)
Greg Wall(Saxophone)
Frank London(Trumpet)
フランク・ロンドンの活動の中で、もっともジャズサイドに舵を切ったグループがHasidic New Waveなのだろうと思います。
クレズマー曲を演奏して哀愁を帯びた雰囲気はキープしつつ、2管フロントのエネルギッシュなハード・バップをベースに、デビッド・フュージンスキーのギターがうなるジャズ・ファンクを加えた、なかなか他では聴けないオリジナリティ溢れるグループです。
特にフュージンスキーの活動では、このグループが彼のベストワークだと思いますね(スクリーミング・ヘッドレス・トルソーズなどはちょっと単調で飽きちゃうのですけど)
Hasidic New Waveの初期3枚のアルバム
『Jews and the Abstract Truth』←タイトル最高
『Psycho-Semitic』
『Kabalogy』
はどれも甲乙つけがたい傑作。
フランク・ロンドンの参加したグループではいちばん好きかも。
Frank London’s Klezmer Brass All Stars
『Di Shikere Kapelye』(2000)
クレズマーはもともと東欧のアシュケナージの音楽なので、ロマ(ジプシー音楽)とは親和性が高いです。
クレズマティックスはドイツのPiranha Musikレーベルからリリースしていたのですが、当時は同じPiranhaからアルバムをリリースしていたファンファーレ・チョカリーアやボバン・マルコビッチオーケストラなどのバルカン・ブラスが世界的に話題を呼んでいました。
このバルカンブラスに対するクレズマー側からのアンサーとしてFrank London’s Klezmer Brass All Starsを作ったのかもしれないな、と思ったりもします。(まあ、流行りに乗ろうとしたのかも、、)
クレズマティックスのマット・ダリオウやデビッド・リクト(David Licht)も在籍していますし、クレズマティックスのような音楽を管楽器てんこもり編成にしてバルカンブラスでプレイする、という割と安易なコンセプトのグループなのかも。
各メンバーの管楽器のテクニックもさすがでイケイケの演奏なのですけど、2000年当時はすでにバルカンブラスは人気の峠を越えていたので、ワールドミュージックファンにはあまりアピールできなかったんじゃないかな。