Floating Points & Pharoah Sanders『Promise』は傑作なのか?

あけましておめでとうございます。

年末年始は新譜アルバムのリリースもほぼ無いのでブログに書くネタがあまり無いので、雑談の回
いまさらですが去年末にいろんなメディアで発表された年間ベストの話です(次回からはちゃんとレビュー書く!)

その中でも特にジャズ関係の年間ベストについて眺めた感想ですね(残念なことにワールド系はメディア自体が少ないし選ばれるアルバムもバラバラなので、「2021年の傾向」みたいなのはわかりづらいので)

このブログでも2021年の年間ベストは選んでいて、それはパーソナルベストなので別に世間の評価とは関係無しの単純な好き嫌いなのですが、こういう音楽ブログをやっていると自分の好みと「世間とのズレ」みたいなのはやはり気になっちゃいます。
自分がブログで取り上げたアルバムが高い評価を受けていれば、「やっぱりね、知ってた」となるし、その逆もある。

という訳で、いろんなメディアのベストを読んだうえで、2021年のジャズアルバムで最も評価が高かったのは、James Brandon Lewis Red Lily Quintet『Jesup Wagon』だったように思います。このブログでも取り上げました

このアルバムは自分も良くレビューなどを読むNYtimesJazzTrailJazzTimesなども含め、多くのメディアでベストに挙げられていましたね。

その他で、予想外に評価が高いなと感じたのは、Adam O’Farrill 『Visions of Your Other』や、Ches Smith and We All Break『Path of Seven Colors』といったラテンタッチのアルバム。
日本人が思うよりアメリカではずっとラテン・ジャズは人気で、感覚のズレを感じるところですね。

もう1枚、ヴィブラフォン奏者パトリシア・ブレナン(Patricia Brennan)のアルバム『Maquishti』の評価の高さは2021年の大きなサプライズだったかも。

このアルバムについてもリリース当時にブログで取り上げたのですが、当時のブログを読み返すと「彼女に関しては情報が全くない」「彼女の名前を検索するとエンヤの情報ばかり出てくる(エンヤのフルネームはエンヤ・パトリシア・ブレナン)」といったことが書いてあったりして、今では彼女を取り巻く状況もガラッと変わったな、と。

この『Maquishti』がソロアルバムという形態をとったのは明らかにコロナの影響で、その結果としてストレートなジャズアルバムではなく、モジュレーションなどで過激に音を加工したアルバムになった訳ですが、もしそういった面が評価されたのであれば彼女にとってはラッキーでしたね。

ちなみにこのブログでNo.1に選んだジャズアルバムはクラリネット奏者ベン・ゴールドバーグの『Everything happens to be.』
このアルバムを年間ベストに選んでいたメディアはほぼ皆無だったのですが、デンバーポストという地方紙のみこのアルバムをランクインさせていましたw

フローティング・ポインツ × ファラオ・サンダース

さて、James Brandon Lewisと共に2021年を代表する1枚と言えるのが、フローティング・ポインツとファラオ・サンダースが共演したアルバム『Promise』

このアルバムはリリース当時もかなり話題になっていましたし、年間ベストに挙げている人もたくさんいましたね。
自分はというと特にブログでも取り上げてもいませんし、正直なところ「あまり感心しなかった」アルバムではあります。

共演アルバムといいつつ、実際のところはこのアルバムはフローティング・ポインツのアルバムであり、個人的にフローティングポインツのことはあまり評価していないからかも。。
彼の前作『Crush』について、まるでオウテカの機能限定版=lite版みたいだという意味で、「Floating Points または Autechre lite」というタイトルのブログ投稿もしましたし。。

フローティング・ポインツ(=サム・シェパード)は、ボイラー・ルームのイベントでグナワミュージシャンと共演したり、異文化セッションみたいなことに興味があるっぽいのですが、どうもそういう活動はCultural appropriation(文化盗用、文化搾取)的なイメージを持ってしまうのですよね。
さらには前回はグナワ、次はスピリチュアルジャズ、みたいなコンセプトの軽薄さが、彼の音楽の魅力をひどく削いでしまっているようには感じます。

また一方のファラオ・サンダースはと言えば、リリース時はもう81歳であり、(単発の仕事はあれど)もう10年以上も前にほぼ引退したような感じだったのではないでしょうか。
彼のピッチの定まらないふらふらとしたサックスを聴くと、なんだかそちらに気をとられて音楽に集中できない感じです。

私がSNSで見かけた意見で

「彼の演奏に不満を述べるのは止めよう。このアルバムはレースを終えた勝者が賞賛を受けながら流して走るウィニングランのようなものだ。そういう意味でこのアルバムは最高の舞台だ。このアルバムを聴いて初めて『Karma』を聴く気になるリスナーもいるかもしれない」

という意見の人もいたりして、全体的に肯定と批判が入り混じった複雑な感情を持っている人も多いみたいです。

『Promise』というアルバム自体をそういった先入観無しに聴いてみると、むしろスティーブ・ライヒのミニマル・ミュージックのような爽快感・さわやかさを感じる音楽ですね。

音楽的な刺激は少ないかもしれないけど、非常に美しい。

このアルバムのYouTubeコメント欄を読むと、自分の身の上話をしている人がけっこうたくさんいて面白いなと思ったのですが、このアルバムの音楽は(たとえば恋愛や別離など)聴いている人それぞれの人生の、ドラマチックな出来事をあざやかに思いおこさせるのかも。

自分はあまりこういう音楽の聴き方はしない(できない)のですが、そういうリスナーの人たちを見ると正直うらやましいなとは思ってしまいます。