Kris Davisはカナダ出身のジャズピアニスト。クリスという名前からはパッと分からないですが、女性です。現在はNYをベースにでアヴァンギャルド/即興系の活動をしているミュージシャンですね。
彼女の2019年リリースの『Diatom Ribbons』は、アメリカメディアで2019年の年間ベストに多く選ばれていました。
前回のTomeka Reidに続き、今回の『Diatom Ribbons』も聞き逃していたので改めて聴きなおしました。
彼女はサックスIngrid Laubrockとの共演が多く(彼女はすばらしいサックスプレイヤー)、何枚かアルバムは聴いていたのですけど、実はあまりピンと来ないピアニストではあったのですよね。
良く言われるように即興/フリー系の音楽では、ピアノという楽器は微分音などのアーティキュレーションが付けづらいからあまり向いていなくて、ピアノレス編成もぜんぜんめずらしくないです。代わりにギターとかビフラフォンを入れたりが多いかも。
彼女もそういったピアノのデメリットを克服できていないのかな、とは思っていたんです。
彼女はハイテクニックで弾きまくるタイプでも無いので、余計に感じるんですよね。
Kris Davis 『Diatom Ribbons』
Terri Lyne Carrington (drums)
Trevor Dunn (bass)
Kris Davis (piano)
Val Jeanty (turntables)
Ches Smith (Vibraphone)
Esperanza Spalding (voice)
JD Allen*, Tony Malaby (Tenor Saxophone)
Marc Ribot, Nels Cline (guitar)
このアルバムは彼女のこれまでのアルバムとはガラッとメンバーを変えてきました。
これまで彼女が(少なくともアルバムでは)共演していないミュージシャンがほとんどなのではないでしょうか。
(共演歴が長いのはTony Malabyくらい)
基本的にこれまでの彼女のアルバムも他のミュージシャンと同様に、ライブなどで共演している組み合わせでそのままレコーディングすることが多かったのですが、
それに比べて今回のアルバムは、楽器ごとに複数メンバーを使い分けるなどスタジオで音作りしていくことにフォーカスしたアルバムになっているようです。
基本的にはクリス・デイビスのピアノに、トレヴァー・ダン(bass)、テリ・リン・キャリントン(drums)が加わったトリオにいろんなミュージシャンが入れ代わり立ち代わり参加する形です。
面白いところでは、Val Jeantyというターンテーブル奏者がほぼ全曲に参加しているところが特徴的
Val Jeantyはハイチ出身の女性で、エレクトロニクス演奏でソロ活動もしていますが、エンジニアとしてジャズアルバム制作に関わったりしているようです。
テリ・リン・キャリントンのアルバムにサイドミュージシャンとして参加もしていたようなので、今回の起用もそのつながりかも。
またエスペランサ・スポルディングによるスポークン・ワードが随所に顔を出し、かなりR&B/HIP HOP色が強いコンセプトのアルバムですね。
正直言ってこういうタイプのアルバムは好みじゃないのですけど、R・グラスパーやエスペランサ・スポルディングが好きな人にはアピールするのかも。
あとドラムのテリ・リン・キャリントン
彼女がデビューした1990年くらいの時期から考えて、楽器演奏のテクニカルな面でいちばんレベルアップしたのはドラムだと思うのですけど、彼女のドラミングはちょっと「現役じゃない感」を感じるかな。まぁ彼女はもう教育者としての活動がメインなみたいですけど。
ただこのアルバムにはマッチしている感じもして、意図的にシンプルに叩いているのかもしれないですけどね。