デイブ・ダグラス『Overcome』レビュー

トランペッターのデイブ・ダグラスの『Overcome』は、彼が2020年12月にサプライズ的にリリースした新作アルバム。
ちょうどアルバムを聴きながら投稿文を書いています。

ダグラスが運営する「Greenleaf」レーベルからのリリースで、Bandcamp限定リリースということ。
Greenleafレーベルは定額制ストリーミング($75でレーベルの全ての音源が聴ける)を行うなど面白い運営をしているレーベルですね。

Personnel:
Dave Douglas (trumpet)
Ryan Keberle (trombone)
Fay Victor (voice)
Camila Meza (voice and guitar)
Jorge Roeder (bass)
Rudy Royston (drums)

メンバーはというと、ダグラスのこれまでのアルバムとは全く違う珍しい編成でレコーディングされていますね。

このアルバムのコンセプトはダグラス本人と、Greenleafレーベル所属のライアン・ケバリー(Ryan Keberle)のふたりによる、2020年という大切な選挙の年に自分たちにとって何ができるかという議論の中から生まれたそうです。
人種、ジェンダー、選挙、そしてまさにパンデミックの状況においては科学について、公平さと正義が求められており、そのことを発信するためにこのプロジェクトははじめられたとのこと。
彼らはパンデミックがひどくなる前は、大統領選のスイングステート(優劣が拮抗している州)にツアーをしてさえいたそうです。

メンバーは基本的には、デイブ・ダグラスのグループ(ダグラス、ルイストン)とケバリーのグループ(ケバリー、メサ、ローダー)が合体してたできたようなグループですね。

参加メンバーの中でフェイ・ビクターだけはどういうつながりで参加したのか不明ですけど、ベーシストのリンダー・オーつながりかも。
ダグラスとリンダ・オーはバンドメイトで長い共演歴がありますし、フェイ・ビクターとリンダ・オーはどちらも「We Have Voice」(※)のメンバーですし ※We Have Voice;マイノリティミュージシャンの権利のための活動団体

このアルバムは2020年の4月から構想されたそうですが、その頃からニューヨークはずっとパンデミック禍にあったため、各メンバー間で音源ファイルをやり取りしてレコーディングするという手法が取られたそうです。

1曲目はピート・シーガーの曲で、反戦活動の中でジョーン・バエズなどに歌い継がれてきた曲『We Shall Overcome』
2020年に起こったBLMの動きの中で何度も演奏されていましたね。

ジャズではBill Frisellがアルバム『Valentine』の中で演奏したバージョンなども印象的でしたね(フリゼールバージョンでのドラムは今回の『Overcome』と同じルディ・ロイストン)
他にはベーシスト、ベン・ウィリアムズのアルバム『I am a Man』でもこの曲をエンディングに演奏していましたね。

『We Shall Overcome』に続く2曲目以降はメンバーが持ち回りで書かれた曲が演奏されるのですが、曲調もシリアスで、そこにふたりのヴォーカリストのうめきのような声が重ねられていきます。
もうアルバムジャケットがそのまま、という印象の演奏です。

ライアン・ケバリーは、普段のグループではカミラ・メサをフィーチャーした軽めのエスニック・フュージョンっぽい演奏をしているようですけど、このかなりのイメチェンですね。

こういう重たいアルバムをこれから何回も聴きかえすかといえば、たぶんならないと思いますけど、それでもこういうアルバムが2020年を象徴するアルバムなのかもしれないな、とも思います。