いやあ、このアルバムは当ブログ的にはスルーできないアルバムですね
ドラマーであるダン・ワイスがリリースした、彼の新しいトリオによる新作『Even Odds』
『Even Odds』メンバー
Dan Weiss – Drums and compositions
Miguel Zenón – Alto Saxophone
Matt Mitchell – Piano
このアルバムはメンバー豪華!
マット・ミッチェルとワイスの共演歴は山ほどあるたくさんありますが、ゼノンとの共演は珍しいかも
ゼノンとは以前「Elvin, Confirmed」という曲をレコーディングしたりしています(他にも共演はあるかもしれません)
それにしても、彼の音楽のベースにインド音楽があるにもかかわらず、今回のようにインド音楽にフォーカスしたアルバムというのは意外に少ない気もします
ベースがいないという編成も、インド音楽を意識したのかもしれないですね
ワイスは数限りないアルバム・ライブに呼ばれており、そのため自身名義のソロ活動も相対的に少ないですし、さらにソロとしても『Sixteen:Drummers Suite』のような作曲家としての顔を全面に出したような作品も多いので、あまりインド音楽っぽい仕事はこれまで少なかったのかもしれません
ミッチェルはともかく、ゼノンは自身のグループでの活動が忙しいわけなので、今回のトリオが長く続くことはないような気もします。レアです
さて、ここでワイスの最近のSNSの話題
シャクティでの活動などでも知られる南インドのパーカッション奏者セルヴァガネシュとの動画です
このアルバムと直接関係ないですけど、けっこうレアかなと思ったので
With my buddy and amazing musician Swaminathan Salvaganesh. pic.twitter.com/gIaTMcRRm6
— dan weiss drums (@danweissdrum) September 14, 2023
北インド音楽では、音の分割のバリエーションを変化させていく(Palta)という考え方がありますけど、『Even Odds』ではこのアプローチをわかりやすく提示している曲が多い気がします。
※ここでいうバリエーションとは、たとえば以下のように16節を通常4+4+4+4と分割するところを、3と2の組み合わせに変えること
|●●●|●●●|●●|●●●|●●●|●●|(3+3+2+3+3+2)
|●●●|●●|●●●|●●●|●●|●●●|(3+2+3+3+2+3)
|●●●|●●●|●●●|●●●|●●|●●|(3+3+3+3+2+2)
(もちろんこれは考え方の説明で実際はタブラ奏者はもっと複雑なことをやっているみたいですが、、1.5とか少数拍が出てきたり)
普段のジャズとはかなり違うと思いますが、特にゼノンは特徴あるリズムにうまくソロを乗せていて、しかも自分のカラーも出していてさすがだと思います
ジャンルやシチュエーションを選ばないというか、なんというかミュージシャンとして「強い」気がします
ダイナミックに変化するリズムと疾走感、最高です
最後の曲「Nusrat」は、もちろんパキスタンのカッワーリ歌手であるヌスラット・ファテ・アリ・ハーンへのオマージュで、美しい曲でアルバムのラストを飾るにふさわしい曲でしたね
カッワーリは、リズム的にはシンプルなパターン(カハルヴァだと思う)なので、ダン・ワイスがヌスラットを意識しているというのは少し意外でしたが
余談
ワイスはタブラをSamir Chatterjeeというタブラ奏者から習い25年も稽古を続けているということです
Samir Chatterjeeは、ファルカバード・ガラナ(コルコタを中心とした流派)で、アメリカに渡ってくる最後の方ではShaymal Boseに師事したとか
彼は自身のホームページに、tabla.orgというドメイン名を取っているのはなかなか猛者ですね
もう1点、Samir Chatterjeeはというとネッド・ローゼンバーグと共演していたタブラ奏者
彼については、以前こちらの「タブラを起用したジャズアルバム」という投稿でも紹介しました
このNed Rothenberg’s syncの音源はストリーミング配信は無いのですが(CD買ってください)、Tzadikレーベルの配信が解禁されたので『Inner Diaspora』というアルバムは聴けるようになりました。
Radical Jewish Cultureシリーズの1枚なので、普段のアルバムとは少し雰囲気が違いますね
Tzadikレーベルはかつて「すぐにFeldmanとFriedlanderの2人を呼ぶ」という「あるある」があって『Inner Diaspora』もそのうちの1枚なのですけど、良いアルバムだと思います
また、彼はギタリストのマイルス・オカザキといっしょにCygnus Recordingsというレーベルを運営していて、この『Even Odds』もここからのリリースです。ストリーミング公開はされていません
Bandcampでご購入を
最後に、JazzTokyoにこの『Even Odds』のレビューが載っていました(素晴らしい!このレビューを読んでみんなこのアルバムを聴いてほしいです)