今回はChant Recordsという名前のレコードレーベルの紹介です。
Chant Recordsのアルバムはけっこう聴いたことあったのですが、今回レーベルを紹介しようと思ったのは、SNSでレーベルの公式アカウントからフォローされたことがきっかけですね(まぁ中の人は日本語は読めないと思うのですが、、)
Chant Records
Chant Recordsは、ギタリストのJon MadofとベーシストのShanir Ezra Blumenkranzによって設立されたレーベルです。
彼らふたりはかつてTzadikレーベルに所属していたグループ「Rashanim」のメンバーですね。
レーベルとしては2017年くらいからアルバムのリリースがはじまっているので、かなり新しいレーベルと言って良いかも。
もともとはZion80といった自分たちが参加するグループの管理のために設立したようですが、今ではさまざまなアーティストが所属し、年間に10枚近くのアルバムをリリースするまでになりました。
基本的にジューイッシュ/ジャズを演奏するミュージシャンが多くて、Tzadikレーベルの「Radical Jewish Culture」シリーズからのスピンオフのようなレーベルとも言えますね。
「Radical Jewish Culture」はかつてはTzadikの主要カテゴリでしたけど、2021年現在ではほぼクローズ状態と言っても良いですし。
今ではジューイッシュ音楽だけでなく電子音楽やオーセンティックなジャズ、ハードコアなど、取り扱うジャンルの幅もかなり広くなっています。
レーベル所属のアーティストで、一般的にいちばん知名度があるのはイスラエル出身のミクスチャーバンド、イエメン・ブルース(YEMEN BLUES)かも。彼らは来日もしていますね。
2021年にリリースしたアルバムでは、ガーナのバラフォン奏者Alfred KpebsaaneとNYで活動するピアニストBrittany Anjouの共演アルバム『Nong Voru / Fake Love』をリリースしています。
このアルバムはTransglobal World Music Chartというワールドミュージックチャートでランクインもしていますし、ワールドミュージックファンにもアピールするレーベルになりつつあるのかもしれません。
そんなChant Recordsのカタログの中から、個人的に気になったアルバムをピックアップします。全部で6枚。枚数が多くてリンクは付けませんがストリーミングでも聴けます。
Zion80『Warriors』(2017)
Baritone Saxophone – Zach Mayer
Baritone Saxophone, Alto Saxophone, Flute – Jessica Lurie
Bass – Shanir Blumenkranz
Drums – Yuval Lion
Guitar – Jon Madof, Yoshie Fruchter
Keyboards – Brian Marsella
Percussion – Marlon Sobol
Tenor Saxophone – Greg Wall
Trumpet – Frank London
この時点のZion80のメンバーは、Madof /BlumenkranzのRashanimとLondon / WallのHasidic New Waveの混合グループ、そこに追加でブライアン・マルセラ、といった構成。豪華メンバーですね。
ジャズのラージアンサンブルのような重厚なアンサンブルとバルカンブラスのような楽しさや華やかさが共存したアルバム。基本的にはパーティーミュージックで、やっぱりこういうグループはライブで聴きたい気はしますが。
こちらはChant Records唯一と言っても良いプロモビデオなのでアップしておきますね。
Roberto De Brasov, Koby Israelite『Provokation』(2019)
Roberto De Brasov – accordion, vocals
Koby Israelite – drums, percussion, piano, Roli Seaboard, guitar, bass, vocals
Annique- vocals (song no. 4)
マルチインストゥルメンタリストのKoby Israeliteと、ルーマニアのアコーディオン奏者ロベルト・デ・ブラソフの共演アルバム。
東ヨーロッパ/バルカン地方のワールドミュージックっぽい音なのですが、ポストプロダクションにがっつり時間をかけている印象で、実験的なポップスや映画音楽のようにも聴こえます。
Koby Israeliteがレコーディング後でひたすらいろんな音を足したり引いたりした様子が伺えます。
仕掛けの多い、とにかく聴いていて飽きないアルバム
Bret Higgins’ Atlas Revolt 『Illusion Machine』(2018)
Bret Higgins – Double Bass
Aleksandar Gajic – Violin
Robbie Grunwald – Electric Piano and Organ
Tom Juhas – Electric Guitar
Juan Carlos Medrano – Percussion
Joshua Van Tassel – Drums
トロントを中心に活動するベーシストのBret Higginsをリーダーとするグループ。彼らはTzadikからアルバムもリリースしていますね。
なんていうかこういうアルバムが、いわゆる「Radical Jewish Culture」っぽいアルバムな気がします。
オリジナルマサダやこのアルバムなどは「3・3・2」のリズムがベースで、なんとも言えない高揚感を感じるのですよね。
こういう高揚感は(今のジャズであまり感じることのできなくなった)かつてのハードバップジャズを聴いた時の感覚に近いかも。
このアルバムではそこからさらにサーフロックっぽいギターとオルガンが加わり、これがすごくマッチしています。
Freakdom 『Session One』(2020)
David Konopnicki (Fretless Guitar)
Shanir Blumenkranz (Double Bass)
Kenny Grohowski (Drums)
ジューイッシュ・パンク・ギター・トリオであるAutorYnoのギタリストDavid Konopnicki を中心としたグループ。
これは正式グループというよりセッション的なアルバムなのですかね。
AutorYnoのパンクっぽい演奏下手ウマな感じから、このアルバムではメタル調のテクニカルな演奏になっていますね。
彼の名前が出てくるたびにいつも言ってる気がするのですが、Kenny Grohowski のドラムは抜けが良くて最高に気持ちが良いんです。
Ben Holmes 『Naked Love』
Ben Holmes (trumpet/rotary trumpet)
Brad Shepik (nylon string guitar/Portuguese guitar/artchtop electric guitar)
Shane Shanahan (percussion)
「ベン・ホルムズって誰やねん」っていうくらい全く知らないトランペッターのアルバムなのですが、なんと言ってもブラッド・シェピックの参加がうれしいです。
このアルバムでは中近東っぽい曲が演奏されていて、ダルブッカやレクなどのアラブ・パーカッションが使われているのですが、これってまさにブラッド・シェピックが参加していた「タイニー・ベル・トリオ」の再来と言って良いかも(タイニー・ベル・トリオはそれはもう最高のグループだったんですよ)
複雑な変拍子の曲などはないですし、即興というよりも印象的な中東メロディを演奏する楽器の「鳴り」を楽しむタイプのアルバムですね。
アラブ・パーカッションはテクニカルに叩きすぎるとカッコ悪くなってしまうし、シンプルに叩きすぎるとつまらないし、バンドの中で演奏するには難しい楽器という印象ですが、このアルバムではジャストな感じですごく良いです。
Shane Shanahanというパーカッショニストは、ヨーヨー・マのシルクロード・アンサンブルなどでも活躍している、ガチの伝統音楽というよりポップよりのプレイヤーみたいですね。