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セシル・マクロリン・サルヴァントがマッカーサー・フェロー受賞

2020年のマッカーサー・フェローに、ジャズ・シンガーのセシル・マクロリン・サルヴァント(Cécile McLorin Salvant)が選ばれたようです。

おめでとうございます!

サルヴァントはいまのジャズの世界では最も注目されるべき音楽家。
新作が出たらまっさきに紹介しようと思って待っているのですが、このブログをはじめてからまだ新作はリリースされないのですよね。
その代わりと言ってはなんですが、今日はこのうれしいニュースを紹介。

マッカーサー・フェローとは

マッカーサー・フェロー(英語: MacArthur Fellows Program、MacArthur Fellowship)は、別名Genius Grant(天才基金)とも言われる基金であり、分野を問わず「人並み外れた独創性、創造性探究への献身、顕著な自己実現能力」を発揮する人に贈られる奨学金制度です。
ひと言でいうとクリエイティビティのある活動に対して贈られる基金。
アメリカで10番目に大きい私的な基金ということです。

科学者、生物学者、歴史家、ライター、アーティストなどさまざまな分野から選ばれています。
とうぜんミュージシャンが選ばれることもありますが、主にクラシック、ジャズの世界から選ばれていますね。

選考基準も謎でオープンにされてはいないのですが、アメリカ本土に住んでいるアメリカ市民であること、という条件はあるようです。

過去の業績への報酬ではなく将来への投資として、5年間にわたって62万5千ドルが支払われるそうです。特に使い道は決められておらず好きに使って良いそうですね。
このあたりは、ノーベル賞などとは180°コンセプトも選ぶ基準も違う感じですね。

面白いのは、受賞者はある日いきなり財団から
「おめでとうございます。あなたは今年のマッカーサー基金に選ばれました。6000万円差し上げます。ご自由に使ってください」
と電話がかかってくるそう。最初、いたずら電話だと思う人も多いそうですね。

過去の受賞ミュージシャン

ではこれまでどういうミュージシャン・作曲家がマッカーサー・フェローを受賞しているかというとこ、ちらになります。
(わたしが名前を聞いたことのある人のみ抜粋しています)

1982年
Conlon Nancarrow, composer
1986年
Milton Babbitt, composer and music theorist
Charles Wuorinen, composer
1988年
Ran Blake, composer and pianist
Max Roach, drummer and jazz composer
※このリストの中でマックス・ローチはちょっと意外ですね。アクティビスト的な活動への評価かも。
1989年
George Russell, composer and music theorist
1991年
Ali Akbar Khan, musician
※インド古典音楽の分野ではラヴィ・シャンカルと並んで最も著名なプレイヤー
Gunther Schuller, composer, conductor, jazz historian
Cecil Taylor, jazz pianist and composer
1992年
Steve Lacy, saxophonist and composer
1994年
Anthony Braxton, avant-garde composer and musician
Ornette Coleman, jazz performer and composer
※オーネットももらっている
1995年
Meredith Monk, vocalist, composer, director
1999年
Ken Vandermark, saxophonist, composer
2002年
Edgar Meyer, bassist and composer
※バンジョーのベラ・フレック、タブラのザキール・フセインとのトリオアルバムは名盤
2003年
Osvaldo Golijov, composer
※アルゼンチン生まれのユダヤ系作曲家。David Krakauer&Kronos Quartetによる「The Dreams And Prayers Of Isaac The Blind」の作曲家
2006年
Regina Carter, jazz violinist
John Zorn, composer and musician
2007年
Corey Harris, blues musician
2008年
Miguel Zenón, saxophonist and composer
2009年
Jason Moran, jazz pianist and composer
2011年
Dafnis Prieto, jazz percussionist and composer
2012年
Chris Thile, mandolinist and composer
2013年
Vijay Iyer, jazz pianist and composer
2014年
Steve Coleman, jazz composer and saxophonist
弟子であるヴィジェイ・アイヤーの翌年の受賞。もしかしてアイヤーが「スティーブが選ばれていないのに自分が選ばれるなんて、、」とか言ってのかも(想像)
2017年
Rhiannon Giddens, musician
Rhiannon Giddensの受賞はけっこうレアですね。音楽の世界からは、ほぼクラシックとジャズからしか選ばれていないので。
Tyshawn Sorey, composer
2019年
Mary Halvorson, guitarist
肩書が「ギタリスト」というのもユニークですね
2020年
Cécile McLorin Salvant, singer and composer

全受賞者のリストはこちらでも見れます

どういう人が選ばれてきたのか

ジャズの世界から選ばれている人を見ると、ガンサー・シュラーやジョージ・ラッセルなど、学術的な貢献のあった人が選ばれているような。
またオーネット・コールマン、セシル・テイラー、アンソニー・ブラクストンなど、フリー系の人が多いですね。

ナンカロウ、ウォーリネンなど現代音楽の作曲家も多く、「スタイル」を作り上げた人が多く選ばれているみたい。

このマッカーサー・フェローですが、オフィシャルには「これから活躍しそうな人への援助」なので、本来は新進気鋭の若手が選ばれるのだと思います。
そのうえでこの受賞者リストを見ると、あまり新進気鋭の若手とは言えない人ばかりですね。
受賞当時からすでにレジェント的な地位で、年代的にもほとんど50代を超えた人がほとんどです。

ただ、近年では年代的に若めのミュージシャンが選ばれてくるようになっているみたい。
最近のタイショーン・ソーリー、メアリー・ハルヴォーソンも30代で受賞。
今年のセシル・マクロリン・サルヴァントなどは31歳での受賞です。おそらくこれまでのミュージシャンの中でもっとも若い受賞者じゃないのかな。

先行分野は多岐にわたっているので、こと音楽分野に限っていえばを担当している人はかなり少ないはず。もしかしたら1人だけで選んでたりして。
おそらくけっこう個人の好みが反映しているセレクションな気もします(その選考委員の人とわたしはすごく話が合いそうな気がする)

6000万円の使い道

ミュージシャンが6000万円もらって、いったい何に使うんでしょうね。
タイショーン・ソーリー、メアリー・ハルヴォーソンなど近年の受賞者をみても、超豪華メンバーでレコーディングするとか何かにパッと使ったような気配はないですよね。
いきなりプラダのジャケットを着るようになるとか、そういうことも無いし。
みんな普通に貯金しているのかなー?
おそらくジョン・ゾーンなどはTzadikレーベルの運営費に使っているはず。

サルヴァントも、もしお金の問題で実現していないプロジェクトとかあるのかもしれないですよね。オーケストラとの共演とかそういうの。
そういうアルバムがこれを機会に形になるとファンとしてはうれしいのですけどね。