クラリネット奏者デヴィッド・クラカウアーの2020年新作『Breath & Hammer』は、南アフリカ出身のピアニストのキャスリーン・タッグとのデュオアルバムです。
ディビッド・クラカウアーは元クレズマティックスのクラリネット奏者で、同じくクレズマティックスのフランク・ロンドンと並び80年代のクレズマー・リバイバルを代表するミュージシャンです。
Tzadikレーベルのラディカル・ジューイッシュ・カルチャーやJ・ゾーンのマサダなどにつながる流れを作りだした超重要プレイヤー。
彼のアルバムはもう最高のものばかりなので、このブログでも以前に彼のアルバムをまとめて取り上げました。
これまでの多くはクレズマーテイストで祝祭的というか「レッツ・パーティー!」といった雰囲気のアルバムも多かったと思うのですが、このアルバムの雰囲気はどちらかというとシリアス。クラシック寄りと言っても良いかも。
共演のピアニストであるキャスリーン・タッグは、ピアノの特殊奏法を多用してプリペアド・ピアノ的に使っており、ピアノ弦に紐をこすってベース代用となるドローン音を鳴らしたり、指で弦を押さえてパーカッション的な効果を出したりと、このアルバムのカラーを特徴づけています。
鍵盤を使った通常のピアノ演奏のあいだに飛び道具的に使うのではなく、まさに特殊奏法が全編にわたって満載の演奏ですね。
こういうピアノの使い方はバラエティに富んでいて非常に効果的に使われています。
ただ、ある意味インパクト重視の演奏とも言えるし、この組み合わせでアルバムを何枚も作っていくつもりかというと、そこまでは本人たちも考えていないでしょう。
もともとこの2人のデュオはここ数年にわたってライブを行ってきたようで、このアルバムはその集大成的な意味合いが強いのじゃないかと想像します。
この2人のデュオによるステージはYouTubeなどでもその動画を観ることができます。
観客席をぐるっと360°まわりに配置したり、リアルタイムでふたりの姿をスクリーンに写したりと、シアトリカルで美しい。
こういうオシャレな演出はこれまでのクラカウアーの活動ではあまり見られなかったので、キャスリーン・タッグか他のスタッフの趣味なんでしょうね。
このアルバムで演奏されている曲は、ライブで演奏されてきた曲なのですが、他の作曲家の曲を多く取り上げていることも特徴です。
ジョン・ゾーンやRoberto Juan RodriguezといったTzadik関係のミュージシャンの曲、シリアのクラリネット奏者Kinan Azmehといった過去のクラカウアーのコラボレーターの曲、モルドヴァのEmil Kroitorなどジューイッシュ音楽の作曲家の曲、などなど。
それにしても、このアルバムは純粋にクラリネットのテクニックを楽しむには最適なのかも。ピアノ1台という最小限の伴奏で音のスペースがふんだんにあるからかも。
ほとんどクラリネットソロと言っても良いような場面でも、カラフルな演奏で聴きほてれしまいます。。
クラカウアーはゴリゴリのテクニシャンだったと思いますけど、バンドサウンドの中でそんなに吹きまくるという感じはなかったですけどね。
「テクニックに裏打ちされた演奏は飽きがこない」という文章を最近どこからで読んだのですが、このアルバムを聴くと「うん、まぁ確かにそうんだよねー」と納得してしまうかも。