Bela Fleck, Zakir Hussain, Edger Mayer with Rakesh Caurasia『As We Speak』

フォーク/ブルーグラス、インド古典、クラシックと、それぞれの楽器のマスターであり、各ジャンルにおいて生ける伝説とも言える、バンジョーのベラ・フレック、タブラのザキール・フセイン、コントラバスのエドガー・メイヤー。

この3人が、初の共演である2009年の『The Melody of Rhythm』以来、再びレコーディングに臨んだアルバム『As we Speak』がリリースされました。

事前情報もあまりない中で唐突にリリースされた今作。
このサプライズをどういう風に例えたら良いんだろう?とにかくうれしい。

お気に入りの映画のパート2が、同じ出演者で公開されるようなものかな。
(映画の続編はたいていは駄作になっちゃうので素直に喜べないのであまり上手い例えじゃないかもしれないけど)

そして今回はさらにうれしいことに、バンスリ(インディアン・フルート)奏者のラケーシュ・チャウレシアが4人目のメンバーとして参加しています。

リズムの旋律

もともとこの3人による唯一のアルバム『The Melody of Rhythm』は、ナッシュビルのSchermerhorn Symphony Centerのオープニングとして演奏されたレナード・スラットキン指揮デトロイト交響楽団とのトリプル・コンチェルトを収録したもの。

アルバムでは4~6曲目がオーケストラとの共演で、その前後に3人のみの演奏を収録しています。

共演のきっかけとしては、フレックとマイヤーがこの公演のための3人目の共演者を探している時に、フセインがオーケストラ作曲に興味を持っていることをフレックが知り「この人からは、たくさんのことを学べると思った」と、彼にオファーをしたそうです。

この『The Melody of Rhythm』での3人での演奏はというと、作曲重視というか割とかっちりと作り込まれていている印象ですが、ザキールが叩くタブラが、フレックのスピード感のあるバンジョー演奏に、独特のグルーブを加えていて新鮮でしたね。

『The Melody of Rhythm』以降、アルバムじたいは今回の『As we Speak』まで作られることは無かったのですが、ただその間に頻繁に3人でライブやツアーは行っていました。

2018年のツアーでは、今回参加したラケーシュ・チャウレーシアがゲストとして参加していたり。
こちらはその時の動画です。

このツアーの音源などを聴いていると、いつかまたアルバムリリースしてほしいなと思っていたのですが、今回その願いが叶った訳です。

このアルバムにゲストとして参加しているラケーシュ・チャウレーシアは、基本はインドを拠点に活動しているのですが、去年にこのアルバムでも取り上げたシタール奏者のPurbayan Chatterjeeとのツアーでアメリカに来ており、このアルバムってたぶんその時にレコーディングされたんじゃないでしょうか。
同じ時期に、ラケーシュとザキールの2人でインド古典アルバム『ZaRa』もレコーディングしていますし。

肝心の演奏はというと、基本的には前作『The Melody of Rhythm』とその後のツアーの演奏の延長線上にありますと思います。

フレックとマイヤーのように、ほぼインド音楽と接点のないミュージシャンがインド音楽家と共演してうまくいく例って、他ではあまり聞いたことないのですよね。
でもこのグループは、それぞれが自分のジャンルの音楽をいつものように演奏していて、それが不思議と調和している感じです。

たいていはインド音楽か西洋音楽との共演では、自然とどちらかに比重は寄っていくものなのですけどね。例えばインド音楽よりのRemember Skakti、西洋音楽よりのTabla Beat Scienceみたいに。

そうしたグループの特徴を、フレックは「これはコラボレーションじゃない。マッシュアップだ」と例えたそう。
上手いこと言っていると思いますね。

アルバムの出来は最高なのですけど、少し細かいこと書くと、今回は思った良りエドガー・マイヤーの弓弾きコントラバスが活躍していたかも。
あとラケーシュのバンスリは、インド古典で普通使われるよりピッチの高いものを使っていて聴いていて新鮮でしたね。

それにしてもこの3人の組み合わせはアルバムクレジットでもBela Fleck, Zakir Hussain, Edger Mayer with Rakesh Caurasiaと名前を並べるだけで、せっかくだから何かグループ名みたいなのを付けた方が良いんじゃないかなー、とは思いますね。