韓国・ソウル在住のジャズ・ドラマーであるソ・スジン(Soojin Suh)を中心に結成された、ジャズと韓国伝統音楽(=パンソリ)を融合させたユニット、Baum Sae。
今回は、彼女たちの1stアルバム『Communication』の紹介。
正直なところ彼女たちのことは知らなかったのですが、Bandcamp Dailyの「2022年7月のベスト・ジャズ」で取り上げられていたのを見かけたのが、聴いてみたきっかけ(元記事はこちら)
こういったジャズとワールド系を融合させた音楽はこのブログでも頻繁に取り上げていて、このBaum Saeなどはまさに「サナコレ・フェイバリット」(←いま作った造語です)なグループと言えるでしょう。
Baum Saeメンバー
Soojin Suh 서수진:Drums/ Percussion/ Midi Programming
Gina Hwang 황진아: Geomungo / Yanggeum / Percussion
Borim Kim 김보림: Vocal Percussion
『Communication』のアルバムコンセプトとしては、パンソリの歌唱をベースとしつつ、通常はプク(打楽器)によって行われる伴奏をドラムセットに置き換える、というもの。
さらに韓国伝統音楽では良く使われる(琴のような弦楽器の)コムンゴと、時にソ・スジンのMIDIプログラミングによるアンビエント感のある電子音によって、パンソリ歌唱にさらなる色付けされています。
パンソリにおける太鼓の伴奏はあくまで歌を支えるもので、極力目立たないようにしているのですが、ソ・スジンのドラム伴奏はかなり手数が多くテクニカル。
いわゆるジャズドラム的な雰囲気も残しつつ、ドラムでプク演奏を思わせるような演奏で、かなり斬新ですね。
「ドラムでパンソリ伴奏してみました」みたいなアイデア勝負にとどまることなく、パンソリの新たな魅力を表現しようとトライしていて、それはかなり高いレベルで成功しているように感じます。
ドラムの打面に布をかぶせることで音質的にプクの音に近い音を出すなど、細かなところも手が込んでいますね。
いや、これはすばらしいアルバムです。こんなパンソリは聴いたことないです。
ちなみにBaum Saeは韓国語で「ナイト・バード」という意味だそうです。
ソ・スジン
ソ・スジンは、ドラマーとしては2010年から活動している韓国のThe Near East Quartetでの活動で知られているようです。
The Near East QuartetはECMからアルバムもリリースしています。ちなみにこのThe Near East Quartetにもメンバーとしてパンソリ歌手が加わっていますね。
「ECM的な」と言っても良いのかもしれませんが、ギターのフィードバック音などスペイシーなアレンジの中で、その空間を手数の多いドラムで埋め尽くすというスタイルで、このアルバムでもソ・スジンはかなり目立っていますね。
彼女のドラム演奏は、「韓国ジャズではの」とか「女性ドラマーとしては」といった枕詞を抜きにしても、かなりのテクニシャンだと思いますね。
グルーヴ感とかノリよりを重視したドラムというよりはパーカッション的な演奏で、細かいパルスを重ねていくスタイルはかなり強引に例えるならTyshawn Soreyみたいかな。
その後、ソ・スジンはソロアーティストとしてのキャリアもスタートさせています。
自身の名義のアルバムとしては、The Near East Quartetのパンソリ歌手の Yulhee Kimが参加した『Moon in Your Hand』(2015)や、ピアノレス・カルテットによるフリージャズ・アルバムの『Strange Liberation』(2018)といったアルバムをリリースしています。
また、Colorist Trio、Chordless Quartetといったユニットでも中心メンバーとして活動していますね。
この映像は2021年のジャズ・デイの出演に際してコメントした動画です。笑顔がチャーミングです。
輝け!韓国大衆音楽賞
これは完全に余談なのですが、、
Google検索しててヒットしたのですが、彼女のColorist Trio名義のアルバム『Colorist』は、2021年のKorean Music Awards(韓国大衆音楽賞)のジャズ部門のパフォーマンス賞を受賞したそうです(元記事はこちら)
これはBTSとかが受賞しちゃうような日本でいうレコ大みたいなものかもしれませんが、こういう賞に選ばれるということは、少なくともソ・スジンは韓国内では知名度のあるジャズ・ミュージシャンと認知されているようですね