Alim Qasimov & Michel Godard『AWAKENING』レビュー

2019年のベスト10を選んでいたのですが、「ジャズとワールドミュージックを紹介するブログ」と言いながら、ベスト10にワールドミュージックがぜんぜん入っていないことに最近気づきました。。

基本的にワールドミュージックはマーケットが小さいので、コンスタントに新作をレコーディングし続けられる人は少ないのですよね。過去にリリースされたアルバムを聴く方が多くて、新譜ってあまりチェックしないかも。

ただそんな中でも新譜に聴くべきアルバムもあって、今回選んだのはALIM QASIMOV & MICHEL GODARD 『AWAKENING』というアルバムです。

魔法の声

アゼルバイジャン出身のアリム・カシモフはNHKの番組のドキュメンタリーのテーマソングに起用されて2008年に来日もしているようで、日本での認知度は高いミュージシャンかも。

わたしが初めてアリム・カシモフの名前を知ったのは『Hommage a Nusrat Fateh Ali Khan』という、パキスタンのシンガー、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンへのトリビュート盤に参加していることで彼のことを知りました。
(このアルバムは正確には「イスラム音楽」というくくりで集められたコンピレーション盤なのですけど。ただウズベキスタンのモナジャット・ユルチェヴァなどなかなか良いセレクションのアルバムです)

アリム・カシモフが歌うのはムガームというジャンルだそうで、基本的にはアーヴァースと言われるようなイラン(ペルシャ)音楽が国ごとに分派したようなもの
使われるスケールやのどを震わせるタハリール唄法など、イラン音楽との共通点も多いジャンルですね。

ムガームは通常、ヴォーカリスト(ダフ=フレームドラムも兼ねる)、撥弦のタール、擦弦のケマンチェという3人によって演奏されます。アリム・カシモフの初期はこの編成でレコーディングしていますが、最近ではバックの楽器もさまざまですね。パーカッションもスペシャリストに任せ、自分は唄うことに専念することも多いようです。

ALIM QASIMOVの新作『AWAKENING』

『AWAKENING』はアリム・カシモフとフランスのセルパン奏者ミシェル・ゴダールとの共演アルバム。
セルパンというのはバス・ホルンのような古楽器ですね(動画内でどういう楽器か見られます)
ゴダールの他に、ジャズ・ピアニストのサルマン・ガンバロフ、ケマンチェのラウフ・イスラモフなどが参加しています。

この動画は『AWAKENING』と同じメンバー編成で、ドイツの Osnabrück市のMorgenland Festivalに出演した時の様子です。

クラシックの演奏家でもあるようで、室内楽っぽい、ジャズに例えるとECMっぽいアルバムに仕上がっています。
西洋音楽と民族音楽の共演というコンセプトのアルバムなのですけど、聴きどころはあくまでカシモフのヴォーカル。

いつもはクリアなハイトーンで圧倒的な節回しを聴かせるスタイルなのですけど、このアルバムでは繊細でエモーショナルな唄を聴かせてくれます。
バックのミュージシャンもあくまで伴奏に徹していて、カシモフのヴォーカルを美しく聴かせることに成功していますね。
ピアノの音色をバックに歌うカシモフというのはすごく新鮮です。