アルージ・アフタブ『Night Reign』

前作『Vulture Prince』に収録された『Mohabbat』がオバマ氏の夏の恒例であるミュージック・プレイリストに選ばれたことで注目を浴び、グラミー賞にノミネートされるまでのビッグネームとなったアルージ・アフタブ(Arooj Aftab)

今回の投稿は、彼女の新作アルバム『Night Reign』について

『Vulture Prince』が大きな成功をおさめ、本人もかなりのプレッシャーを感じていたらしい中で制作された本作ですが、『Vulture Prince』後に彼女が出会ったさまざまなアーティストをゲストを迎えるスタイルで作られたアルバムになっています

このアルバムのように「featuring 〇〇」みたいなタグが付いた曲が並ぶのは、トレンドというか今の定番のアルバムづくりではあるのですけどね

アルバムよりもシングルが大事
音楽サブスクの1強であるSpotifyはアルバムという単位を重要視せず、その代わりにプレイリストを好むのも似たような話かもしれません。

 

ただアフタブがこういったゲスト満載のアルバムを作ったのは少し意外で、新アルバムが注目されるだけに共演歴の長い勝手のわかるミュージシャンと手堅くアルバムづくりをするかと思ったのですけどね

前作『Vulture Prince』はNew Amsterdam Recordsからのリリースで、当時のライブもレーベルカラーに近いというか、わりとストリング中心のネオ・クラシックっぽい感じだったこともあり、新作もああいう感じのアルバムになるのかな、と(勝手に)思ってました

当時のグループはというと、おそらくギャン・ライリー(テリー・ライリーの息子のクラシック・ギタリスト)がバンドリーダー的な役割だったんじゃないかと思うのですが
ギャン・ライリーはチェコ出身でロマ系のヴォーカリスト・ヴァイオリニストであるイヴァ・ビットーヴァ(Iva Bittova)とコラボするなど、エスニックな音を自身の音楽に取り入れることにも意欲的なミュージシャンでもありました

新しいコラボ満載という逆方向のベクトルへと舵を切ってきた感じで、かなり意欲的だとは思いますが、ライリーとのコラボによるこういったクラシック路線のアルバムも聴きたかった気はします
(いちおうライリーは『Night Reign』にも1曲参加していますが)

このあたりの方向転換は、移籍したVerveの意向なのかもしれません

それにしても『Night Reign』のようにコラボ相手が多い『Night Reign』のようなアルバムだと、曲ごとに印象が大きく変わりますね。
たとえば「枯葉」のカヴァーなどは、アルバムを通して聴くとやはり異質な気はします。
(枯葉についてレーベル側は「止めとけば?」とアドバイスしたそうですが、それもわかるような気はします)

そういう意味では、こういうアルバムをアルバム全体を通してジャッジするのはナンセンスなのかもしれません

ちょっと話は変わりますが、前回の投稿でApple Musicが史上最高のベストアルバムを選ぶという企画について投稿しましたが、これはAppleによるSpotify的価値観への反抗、アルバムの価値への復権と言えるのかもしれません

ただ、個人的には音楽が曲単位で聴かれるのはある意味では当然だし、むしろこれまで「アルバム」というものの価値が過大評価されすぎてきたのだとは思いますが。

たとえばアフタブが育ったパキスタンを例にあげれば、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンやアヴィダ・パルヴィーンのアルバムは言ってみれば入るだけ曲をコンパイルしただけのものですし。

他にも、ボリウッドの映画音楽なども基本はシングル単位で聴かれていると思いますし。

話がそれましたがアフタブの話

そういう観点から『Night Reign』を曲単位で聴けば、例えば先行シングルの”Raat Ki Rani”などは、スローなグルーヴの上で儚げに歌われる、良い曲だったと思います。
(正直なところ、最初聴いた時は「シャーデーのカヴァー?」と思いましたが)

他にも、Moor Motherの力強いポエトリーリーディングが不穏な雰囲気を感じさせる”Bolo Na”や、ヴィジェイ・アイヤーとの音楽的な親密さを感じる”Saaqi”なども聴きどころかも

アフタブ自身は自分が優れたヴォーカリストとは思っていないと思うのですが、『Night Reign』では曲が盛り上がるここというポイントに自分の声を配置していて、なかなか効果的なアレンジだと思いましたね

余談ですが、ヴォーカルのエフェクト的にAutotuneを使っているようなのですが、これは不要だったかもしれません(不自然だと思ったし、けっこう気になりました)

コラボ曲がメインであり、アフタブ自身がやりたい音楽をやりきったアルバムとは少し違うと思いますが、全体的に良いムードの曲も多くて、細部にまで神経の行き届いたレベルの高いアルバムだと思います

1. “Aey Nehin”
2. “Na Gul”
3. “Autumn Leaves” (featuring James Francies)
4. “Bolo Na” (featuring Moor Mother and Joel Ross)
5. “Saaqi” (featuring Vijay Iyer)
6. “Last Night (Reprise)” (featuring Cautious Clay, Kaki King, and Maeve Gilchrist)
7. “Raat Ki Rani” Arooj Aftab
8. “Whiskey” Aftab
9. “Zameen” (featuring Chocolate Genius, Inc.)

Musicians
Arooj Aftab – vocals
James Francies (3)
Moor Mother (4)
Joel Ross (4)
Vijay Iyer (5)
Cautious Clay (6)
Kaki King – guitar (6, 8)
Maeve Gilchrist – harp (6–8)
Petros Klampanis – upright bass (7), piano (7)
Heather Ewer – tuba (7)
Shahzad Ismaily – synthesizer (7)
Jamey Haddad – percussion (7, 8)
Keita Ogawa – percussion (7)
Gyan Riley – electric guitar (8)
TimaLikesMusic – piano, synthesizer (8)
Linda May Han Oh – bass (8)
Chocolate Genius, Inc. (9)