もう去年末、2023年末にリリースされたアルバムの話題ですけど、当時は仕事の方が忙しくて投稿できなかったアンドレ3000の新作の件
アトランタ出身のラッパー、ソングライター、音楽プロデューサーで、ヒップホップデュオのアウトキャストのメンバーであるアンドレ3000(André 3000)が、彼が関わったアルバムとしては17年ぶり、ソロとしては初のアルバム『New Blue Sun』をリリースしました。
André 3000って、どうもアンドレ・スリーサウザンドと読むそうです。
うーむ、まったくの初耳だったのですけどね(最初お笑いコンビの名前かと思いました)
リリースの話題を聞いた時も、New Blue Sunというグループの『André 3000』なのか、André 3000というグループの『New Blue Sun』なのか良くわからなかったり。
彼は、アウトキャストでの成功の後には俳優としても活躍しているそうで、どうもジミヘンの伝記映画に主演していたりもするそうです。
アウトキャストは5作目となる2枚組アルバム『Speakerboxxx/The Love Below』(2003年)で、デュオがそれぞれ1枚づつ制作するというスタイルを取り、アンドレ3000が手掛けた『The Love Below』は多くのヒット曲を生み出し、結果としてアンドレ3000は「史上最も偉大なラッパーの一人」という評価を受けているそうです。
2003年というと、まあかなり昔の話ですね。
ノラ・ジョーンズがデビューアルバムで大ヒットを飛ばし、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の1作目が公開された年です。
過去のレジェンドが、復帰やグループのリユニオンでアルバムをリリースするのはわりと良くある話かもしれませんが、それでもかつてのファンにとっては(たとえアルバムの出来がどうであれ)待ちに待ったアルバムになるのでしょう。
そういった期待があるなか、アンドレ3000は、ラップは全くせず、全編にフルート(アルバムジャケットで持っている変な形のやつ)を演奏するというアルバムをリリースすると発表しました。
このアルバムリリースに関しては、SNSでもかなり話題になっていて、というか世間をかなり戸惑わせていました。
やはり全米で数千万枚単位のアルバムを売るというのは並みたいていのことじゃないですね。
リリースされた後にこのアルバムを聴くと、フルートの音を印象的に使ったアンビエント/ニューエイジ音楽であり、(そういうジャンルが好きな人以外にとっては)はっきり言ってとりたてて聴くべき所のないアルバムだとは思います。
このブログで取り上げたアルバムでいうと、このダライ・ラマの説法をニューエイジ音楽に仕上げたこのアルバムなどが、テイストが近い作品かもしれません。
(ちなみに、アンドレ3000のアルバムにも「Ghandi, Dalai Lama, Your Lord & Savior J.C.」というダライ・ラマの名前が入った曲がありますね)
とはいえ音楽にはエンタメだけではなく、場合によっては聴くべきTPOがあるのだと思います。
たとえばドライブする時、クラブで踊る時、教会で神に祈るとき、綿花を摘む時、などなど。
このアルバムにも聴くべきタイミングはあると思いますが、それはたとえば「ヨガで瞑想するときに」みたいな限定された条件になるんじゃないかと。
SNSの評価を読んでも、たいていの人は「アルバムの内容や出来はともかくとして、、」という感じで、遠回しに自分が聴くような音楽じゃないことをほのめかしていたのですけどね。
レジェンド級のアーティストが理解不能なアルバムを出す、このモヤモヤした感じは、カニエ・ウェストの『DONDA』がリリースされたとき以来かも。
世間の受け止めはそんな感じだったのに、Pitchforkのレビューを読むとこのアルバムに8.3点を付け、おおむね好意的な評価をしていたのですが、ちょっとなに言ってるかわからなかったです(Pitchforkの点数に異議を唱えるのはヤボなこととは理解していますが)
評価はともかく、Pitichforkのライターがレビューの中で言及しているように、このアルバムのリリースが発表された当初は「フルートジャズ・アルバム」と考えられていたようです。
キーボード奏者のSurya Botofasina(アリス・コルトレーンのアシュラムの音楽監督であり、アリスと一緒にアシュラムで育った)が参加していることからも、ディレクターのカルロス・ニーニョの存在からも、『New Blue Sun』はアリス・コルトレーンに代表されるようなスピリチュアルジャズの系譜にある作品なのだと多くの人は考えていたみたい。
だけどリリースされた作品を聴くと「スピリチュアルジャズ」とは似て非なる「ニューエイジ音楽」
多くのリスナーは「え?思ってたのと全然違う」と感じたと思います。
いったい、なにがどうなってこんなことになっちゃったんでしょうね?
当初は「スピリチュアルジャズ」を指向したアルバムが、(うまくいかず)結果として「ニューエイジ音楽」になってしまったのか。
最初から「ニューエイジ音楽」のつもりだった音源を、「スピリチュアルジャズ」(というなにやら高尚っぽいジャンル)として宣伝したのか。
当人たちは最初から「ニューエイジ音楽」を作るつもりでいて、「スピリチュアルジャズ」云々は周りの早とちりだったのか。
『New Blue Sun』のリリースにまつわる反応で興味深かったのは、このアルバムのコンセプトが発表された時に多くのジャズミュージシャンが反応したことでしたね。
当初はアンドレ3000が「フルートジャズ」をリリースすると言われていましたから、ジャズミュージシャンとしては「元ラッパーが私たちの主戦場に乗り込んできた」と思ったのかもしれません。
でも実際にリリースされたアルバムが聴けるようになると、(おそらく事前情報から想像されたようなアルバムではなかったので)ジャズミュージシャンの反応も「いやホント最初はびっくりしたよね」みたいな反応に変わっていったと思いますが。
このアルバムに関して、いちばん秀逸だったポストはこれかな
The Andre 3000 flute backlash has started even faster the the Pharaoh/Floating Points backlash.
— Bobby Lee (@BobbyLeeBoogie) November 17, 2023
The Andre 3000 flute backlash has started even faster the the Pharaoh/Floating Points backlash.
(アンドレ3000のフルートへの反発は、ファラオ・サンダース/フローティングポイントの反発よりもさらに早く始まっている。
こういうアルバムはリトマス試験紙のようなものじゃないかと感じますね。こういう作品について誰がどういうことを発言するかを読んでいくのは(その音楽を聴くよりもずっと)楽しいです。
たとえばこのポストへのリアクションなどを読んでも、「アンドレ3000が駄作を作ると困る人」が、世の中にはこんなにもたくさんいるということ。
いずれにしても、アルバム1枚のリリースでファンを一喜一憂させるアンドレ3000は、ビッグアーティストであることは間違いないということですね。