アンブローズ・アキンムシーレ『Owl Song』


アンブローズ・アキンムシーレというと、彼はもうすでに彼の同世代を代表するトランペット奏者になりつつあると思うのですけど、1982年生まれというともうすでに40代にはいっているわけで、ミュージシャンとしてはもうベテランの域に入っていると言っても良いのかもしれないですね。

彼が2023年にリリースした新作『Owl Song』は、ギタリストのビル・フリゼールとドラマーのハーリン・ライリーという彼よりもかなり上の世代のプレイヤーを迎えてのベースレスのトリオ作品です。
ハーリン・ライリーはウィントン・マルサリスとも共演したドラマーとのこと。

2023年のアキンムシーレは、パリの大聖堂で録音されたソロ・トランペット・アルバム『Beauty Is Enough』を自主リリースしたり、これまでの正攻法なアルバムからは少し外れた作品を立て続けにリリースしている印象ですね。

本作のトリオは、アキンムシーレのソロアルバムというよりは、フリゼールのソロアルバムにアキンムシーレがゲストとして招かれたようなアルバムですね。
フリゼールのベースレストリオというと、ポール・モチアン/ジョー・ロヴァーノ/フリゼールのトリオが有名なのだと思いますが、今回のアルバムはコルネット奏者ロン・マイルスとのトリオにテイストは近いのだと思いますね。

フリゼールとロン・マイルスによるトリオ作品についてはブログにも書きました。

モチアン・トリオが都市の音楽としたら、ロン・マイルスとのトリオはカントリーサイドの音楽でしょうかね。

フリゼールのアメリカーナ路線のアルバムはけっこうありますが、これもそういったうちの1枚と捉えることができるかも。

このアルバムで聴けるのは、革新的な現代ジャズでもなければ、才能あふれるトランペット奏者によるひらめきにあふれたソロ演奏でもない訳ですけど、フリゼールのソロが好きな人には必聴のアルバム。人を選ぶ音楽なんだと思いますけどね。

そういう訳で、このアルバムのレビューなどを読んでも、内容そのものについて書かれたものは少ないのですよね。

そんな中で、ニューヨーク・タイムスのおなじみジャズライターGiovanni Russonelloさんの記事はなかなか面白かったです。

アキンムシーレは、ハービー・ハンコック・インスティテュートのアーティスティック・ディレクターに就任しているのですが、おそらくハービー・ハンコックつながりでジョニ・ミッチェルと友人となり、彼女の家に赴いて演奏することもあるとか。

もうひとつ今作のレビューを読んで興味深かったのは、彼の初期の代表作である2011年にリリースされて『When the Heart Emerges Glistening』について「周りの人々や友人の接し方が全く変わってしまった」「こんな状況に関わりたくないのでロサンゼルスに引っ越した」と話していたことですね。

『When the Heart Emerges Glistening』の紹介文には、ブルーノートCEOブルース・ランドヴァルの「ジャズ界に必要なのは彼のようなミュージシャンだと確信している」という言葉がよく引用されているのですが、こういう型にはまったミュージシャン像が心底イヤだったのかも。

『Owl Song』は長年在籍したブルーノートからノンサッチレーベルに移籍してのアルバムになるのですが、ブルーノートにいた時期はさすがにこういう話も言いづらかったんでしょうかね。

そう考えると、この『Owl Song』も、彼がずっとやりたくてできなかった音楽だったのかもしれません。