きょう紹介するのは2019年の聴き逃しアルバム。
Spotifyのからオススメされたのですが、おそらく以前紹介したジム・ブラック・トリオ『Reckon』(→こちら)のからヒットしたみたい。
Mark Dresser Seven 「Ain’t Nothing But a Cyber Coup & You」
Personnel
Nicole Mitchell (flute, alto flute & piccolo)
Marty Ehrlich (clarinet, bass clarinet & alto saxophone)
Keir GoGwilt (violin)
Michael Dessen (trombone)
Joshua White (piano)
Jim Black (drums & percussion)
Mark Dresser (double bass)
このアルバム、すごく良いですね。
マーク・ドレッサーはフリー/インプロ系で活躍するベーシストとしてはビッグネームなのですけど、かつてのTzadikのアルバム『Marinade』『Banquet』などを聴いてもあまりピンと来なかった記憶がありました。
Drew Gressとかともイメージ的にダブってしまうのですが、基本はクラシック音楽ベースの人にありがちな「何かとても難しいことをやってる感じ」がちょっと苦手だったのです。
今回聴いてみて印象が変わったのですけど、もしこのアルバムを2019年に聴いていたら年間ベストテンに入れていたかも。
荒野の七人:(The Magnificent Seven)
このアルバムはマーク・ドレッサー・セブンとしてはセカンドアルバム。ヴァイオリンのみ前回からメンバー変更していますね。
このグループとしてはセカンドですけど、それぞれのメンバーとはこれまでかなり長いスパンで共演してきた、お互い馴染みのあるメンバーで構成されたグループだと言えます。
ニコル・ミッチェル、マーティ・アーリック、ジム・ブラックなどのメンバーはジャズフィールドではベテランと、あとは西海岸をベースに活動する若手のミュージシャンで構成されています。
マーク・ドレッサーってカリフォルニア出身なんですよね。気難しそうにベースを弾くドレッサーが太陽の光が降り注ぐカリフォルニア出身ってのいうのは意外ですけど。
ドレッサーがニューヨークでジョン・ゾーンと共演したり(Spy vs Spyとか)Tzadikでレコーディングしていたのははるか昔、彼ははもういまでは地元カリフォルニアに戻り演奏活動するかたわら、カリフォルニア大学(University of California) San Diego校で教鞭を取っているようです。
こういうアルバムを聴くと、アメリカの中での地域性ってあるんだなと思いますよね。
ジメジメしたニューヨークで活動していると、ついベースソロのアルバムなんかを作っちゃうのかも。
ピアノのジョシュア・ホワイト(Joshua White)は2011年のセロニアス・コンペティションで2位をとった人(1位はKris Bowers)ですが、サンディエゴの人で彼が10代のころからドレッサーとは面識があるそう。
もともとクラシックのレッスンを受けた人のようですね。
「車のトランクが本でいっぱい」になるくらいの読書家で、今でも地元サン・ディエゴの教会でオルガンを弾く敬虔なクリスチャン。
トロンボーンのマイケル・デッセン(Michael Dessen)は、ライブ・エレクトロニクスなどを大学で教えているという異色のプレイヤーです。
ホワイトとデッセンはドレッサーのローカル・グループMark Dresser’s West Coast Quintetでも活動している古くからのバンドメイトでもあります。
なかなか個性豊かなメンバーのグループですけど、マーク・ドレッサー・セブンというのはグループ名も『荒野の七人』(The Magnificent Seven)をイメージしたのかも。普通だとMark Dresser Septetと付けますからね。
ウェストコーストをベースに活動しているグループなので、ウエスタンをもじっているのだと思います。
作曲家 マーク・ドレッサー
なんと言ってもこのアルバムは曲が良いのだと思います。7人という多層的なアンサンブルを活かしつつ耳に残る印象的なメロディーであり、各メンバーのソロをのせた場合に映える曲ですね。
いくつか曲のトリビア的な情報を書くと
“Black Arthur’s Bounce,”
アーサー・ブライスに捧げた曲。マーティ・アーリックのサックスがフィーチャーしています。アーリックはかつてドレッサーとともにブライスと演奏していますね。
“Butch’s Balm”
サラ・ヴォーンの伴奏ピアニストで、ドレッサーの個人的な友人でもあったブッチ・レイシー(Butch Lacy)に捧げた曲。当然ジョシュア・ホワイトのピアノがフィーチャーです。
“Let Them Eat Paper Towels”
トランプ大統領がハリケーン・マリアで被災したプエルト・リコを訪れた際に、支援物資のペーパータオルを放り投げたため「わたしたちは犬じゃないぞ!」と批判された件(→こちら)を取り上げた曲。
タイトルにあるフレーズはこの件を受けての、経済学者クルーグマンの批判コメントとのこと。
この曲のドレッサーのベースラインは、プエルト・リコの国家をモチーフにしています。
このあたりの政治姿勢はいかにもカリフォルニア的。「サイバーテロしかない」というアルバムタイトルも体制批判的ではあります。
Clean Feed Records
ところで、このアルバムをリリースしたClean Feed Recordsというのはポルトガルのレーベルなのですね。
最近、このブログでもスイスのIntaktとかフランスのRogueartとか、アメリカ外のレーベルによるアルバムを取り上げることも多いですけど、こういうレーベルがジャズミュージシャンのレコーディングの受け皿となっているのはすごく頼もしいですね。